松沢呉一のビバノン・ライフ

香港からの脱出の障害になっているもの—ポストコロナのプロテスト[97]-(松沢呉一)

香港のロックダウンと強制検査—ポストコロナのプロテスト[96]」の続きです。

 

 

半年で香港人の1.7パーセントが香港を脱出

 

vivanon_sentenceつい先日、香港で民主化闘争に関わった人が香港から移住すべきかどうか悩んでいるという話を聞きました。直接聞いたわけではなく、香港に知人がいる人から聞いた話。何十万という香港人が同じ悩みに煩悶しているはずです。

残念ながら脱出という形でしか香港の人たちはプロテストができなくなってしまいました。

以下の記事によると、国安法以降、13万人がすでに香港から脱出しています。

 

 

2020年12月1日「Radio France Internationale

 

 

香港政府は公式な数字を出していないですが、写真左の在香港の投資家であり、民主活動家であるデヴッド・ウェッブ(David Webb)さんが出国データから割り出したところによると、国安法施行直後の昨年7月1日から今年1月8日まで、香港を離れた人数は130,723人で、香港の人口の1.74%に相当(彼のサイトはこちらなのですが、この件は見つからず)。

その最大受け入れ先は英国で、約10万人を受け入れていて、英国の新しい制度により、香港人の70パーセントが英国に移住する資格があります。すぐさま永住資格を取得できるわけではないですが、5年間問題なく英国で暮らせば、その道が開かれます。

今後5年間で30万人が移住すると英政府は見積もっています。これ以外にカナダやオーストラリアも積極的に受け入れることを表明していますから、5年間で少なくとも5パーセントくらいが移住することになりそうです。

年寄りは「もうこのままここで死んでいければいい」ってことになるでしょうけど、若い世代だと、10人に1人、あるいはそれ以上が移住することになるかもしれない。

今回のロックダウンのようなことが起きるたび、「逃げよう」と思う人は増えます。

 

 

移住の煩悶

 

vivanon_sentenceそれ相応の立場の人がその気になったら受け入れてくれる国はありましょうけど、そう簡単には決断はできない。

 

 

2020年12月21日「REUTERS

 

 

ここに出てくる一家は、どこかのドキュメンタリーにも出ていたんじゃないかな。

デモに参加はしても、民主化運動にさほど積極的ってわけでもなく、それでも香港に失望。その苦渋の決断が描かれているわけですが、彼らは余裕のある暮らしぶりで、貯蓄もあるでしょうし、マンションを売った金もあるので、当座の生活には困らない。本土中国人の富裕層が香港の物件を買っているので、そこそこの金になるようです。

夫婦は香港生まれではないようで、そのために英語は得意ではないとありますけど、経済的に恵まれているだけでも相当に有利。

天安門事件以降、香港から脱出する人は多数いて、先行して移り住んでいる香港人の多い国では、ある程度受け入れ体制はあって、住む場所や仕事を斡旋してくれるようですが、大量に移住するとなればしばらく仕事が見つからない可能性も高く、蓄えのない人は決断できない。

 

 

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