現実と虚構の狭間にて—小説を書くのは難しい-(松沢呉一)
最近の趣味
「ビバノン」の更新ペースを落として、最近何をしているのかというと、ナチス関連を筆頭に本をやたら読むと同時に、小説を書いてます。あくまで暇つぶし。
「蜆町詐偽事件」は結果できあがったものを他人が面白がれるかどうかは別にして、あるいは出来上がったものが私にとって面白いかどうかも別にして、書くこと自体は面白かったのです。だから4万字も書いたわけで、その4万字のうち、3万字はウソ話と言ってよく、ウソは勝手に走り出すのが面白い。
とは言え、これが出来たとして箸にも棒にもかからないものだったら、さすがに書く気がしないですが、数は少なくとも、また、お世辞半分と言えども、「蜆町詐偽事件」を楽しんでくれていた人もいたことがわかりました。面白がっていたのが2人とも編集者ですので、ちょっと自信を持ちました。
しかし、ここで調子に乗って「ビバノン」に出しても、まず受けることは考えられない。「ビバノン」の講読者は小説が目当てで講読しているわけではありません。「蜆町詐偽事件」も2回目にしてほとんど読む人はいなくなったのは当然です。出すんだったら小説を読む気のある人がいる場所で出すしかない。
そんな場はないですから、書いたものは「ビバノン」に出したくなるので、ただの気分転換に留めるべく、自分にプロテクトをかけていて、「蜆町詐偽事件」と同じく事実をもとに発展させるものにしています。これだと私自身に「発表したらまずい」という思いが生じます。つっても「「蜆町詐偽事件」ほどは事実に基づいてないですが、どこかしらに今まで体験したことや聞いたことが入っています。
もうひとつ縛りがあって、すべて銭湯が舞台です。そこだけで話が展開するわけではないですが、必ず銭湯が登場して、欠くべからざる設定になってます。こうしないとあまりに書けることが多すぎて、書き出したとしてもとっちらかるからです。足枷をつけておかないと私は暴走します。
「銭湯小説」というジャンルは私にとっては強固な足枷で、出て来る銭湯はすべて実在の銭湯をモデルにしていますし、出て来るのが年寄りばっかりなのも現実に引っ張られる結果です。
※ディーン・R. クーンツ著『ベストセラー小説の書き方』 こういう本を読む時点で面白いものが書けそうにないですが、ともあれどう考えたらいいのかわからんことが出てきたので、なんか読むかな。
長い小説は難しい
今のところ、「蜆町詐偽事件」を別にして9本書いてます。使ったことのない頭を使っているので、なんぼでも書けます。このペースで書き続けるのは無理ですが、ここまでは3日に2本ペース。
短いものは2千字ちょっとで、コントの台本みたいなもんです。長いものは1万字以上あります。発表が前提になっていないので、細かなところは適当で、飛ばしているところも多いですが、この9本は最後まで行きついています。
多くはアイデア一発の瞬間芸的なものですから、最後までよどみなく書けるのですが、長いものは次々挫折しています。挫折するパターンはどれも共通していて、細部に入り込んでしまうことにあります。
(残り 1503文字/全文: 2810文字)
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