松沢呉一のビバノン・ライフ

先入観を持たないことは不可能であることを前提にした差別対策—ボツにした例題-(松沢呉一)

誰も偏見から逃れられない—群衆心理に打ち勝つ法[3]」「絵のデフォルメ・言葉のデフォルメ—群衆心理に打ち勝つ法[4]」「在日認定がなされるまで—群衆心理に打ち勝つ方法[5]」あたりで展開した「人間は先入観をなくすことなどできるはずがない」という主張の例題として書いたものです。長すぎてくどいのでボツにしました。例題を考えるのが楽しくて、もうひとつ例題を続けていたのですが、そっちは出来がよくないので今回もボツにしました。これを踏まえて、「では、その偏見が差別に至らないようにどうしたらいいのか」を考えるしかないのです。

 

 

ある投稿

 

vivanon_sentenceこんな投稿を見ました。

 

 

今年になってから尻に異物感があってさ。尻というか、肛門なんだけどね。触ってみると、しこりがある。ネットで調べたら、いぼ痔の初期らしく、ほっとけば治ることもあるって出ていたのでほっといた。

そしたら、大をする時にそのしこりが肛門の外に出てくるようになってきたんだよ。最初は尻を閉めると引っ込んでいたんだけど、そのうち指で戻さなきゃいけなくなって、排便時じゃなくても外に出てきて、痛みも始まった。

近所に、古い洋館を使った病院があって、そこが肛門科なんだ。いつか痔にでもなったら行ってみようと思っていたんだけど、まさかその日が来るとはね。

「薬でも直すことはできるが、確実に治る保証はないので、手術の方が確実だ」と医者に言われるまま、その数日後に生まれて初めて手術をした。

痔の手術って治るまで時間がかるんだね。一ヶ月間は酒、タバコ、刺激物、夜更かしは全部控えろって言われてさ。仙人みたいな生活をしたよ。楽しみは術後の経過を診てもらうために病院に行くことだけ、みたいな。これが大げさじゃなくて楽しかったんだよ。

「完治するまで車も乗らないように」って言われて、「何に乗ってんの?」「アルファロメオ」ってところから盛り上がってさ。その医者も前はアルファロメオに乗っていたんだって。そこから急に打ち解けて、尻はちょっと診るだけで、あとはダベって帰ってきた。

全快して、これでもう通院が終わるって日に医者がこう言うんだよ。

「全快祝いで酒飲みに行かないか。おごるよ」だってwww

こっちも言いつけを守って酒を断っていたから断る理由はない。

医者の行きつけの店に行ったらオレ以上に大酒飲みで、店のママの言葉で怒り出し、グラスを投げつけて追い出されてしまった。酒癖わりぃ〜

その上、やめた方がいいと言っているのに、愛車のシトロエンを引っ張り出して、海までドライブに行くことになり、スピードを出しすぎてカーブを曲がりきれずに横転し、車は大破。

気づいたら病院のベッドの上さ。医者も同じくベッドの上。

昨日から、やっと起き上がれるようになって、これを書き込めるようになったわけ。医者はまだベッドに縛り付けられた状態で、さっき話をしたんだけど、自動車免許だけじゃなくて、医師免許も剥奪になるかもしれないって。飲酒運転だけならしばらく免許停止で済むらしいんだけど、事故った上に患者のオレを巻き込んでいるのがまずかったらしい。

オレの方が半分被害者みたいなもんだけど、オレが慰める役だったよ。これからどうなるんだろうね、あの人。当面仕事もできないので、オレもどうなるんだろうね。

 

 

Facebookで誰かがシェアしているこの文章を読んだ時に、どうしても人は頭の中でイメージを作り上げます。

たとえば私であれば、古い洋館と聞けば、北千住駅の近くにある大橋眼科医院をここに重ねます(正確には「古い洋館風」であって、建てられたのはそんなに古くないらしい)。建物の中も見たいので、目が悪くなったらここに行こうと決めています。

医者は50代くらいか。ヒゲが生えているかもしれない。

「オレ」は30代か。飲み屋のママは40代。この飲み屋は小料理屋かもしれず、女将は和服のちょっとした美人というイメージ。

シトロエンが千葉の海沿いのガードレールに激突して大破するイメージも出来上がる。

※北千住の大橋眼科医院

 

 

意外な展開

 

vivanon_sentenceそののち、同じ人物がこんな投稿をしているのがシェアされてきます。

 

今日は揃って退院の日。でも、これからも二人は一緒だ。昨日ヤツはオレに“すべてを失ったけど、おまえは失いたくない。一緒に住もう”と言ってくれた。もちろん、オレも望むところだ。20歳の年の差なんて気にしない。国の違いも気にしない。

 

え、どういうこと? 二人はゲイだったのかよ。相手は外国人なのか。あるいは「オレ」が外国人なのか?

 

 

next_vivanon

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