松沢呉一のビバノン・ライフ

香港の現在—国外脱出した香港人たちのあまりに過酷な現実[上]-(松沢呉一)

 

香港の現在を知ることの辛さ

 

vivanon_sentence10月1日の国慶節に香港で行われてきた政治犯釈放を求めるデモは今年は4名のみ参加。5人以上集まると法に抵触して潰されるためです。

 

 

 

この一方、香港でも国慶節の式典が行われ、各所で五星紅旗を振る中国人たちがいたことも報じられています。

TBSは繰り返し「その後の香港」を報道していますが、ほとんどの場合、1万再生回数にも届きません。かまいたちのチャンネルの100分の1以下、Aマッソのチャンネルの10分の1以下です。テレビで放送したあとの二次使用を自社サイトに出し、最後にYouTubeに出しているのでしょうから、役割は終えているわけですけど、かまいたちやAマッソはもちろん、犬猫や食い物の話題にも勝てない。

実際、観ても辛くなるだけですが、観続けることが責任だと思ってます。民主化運動を支持するようなことを言いながら、あっという間にネタとして消費して、香港メディアや台湾メディアをチェックすることなく、中国共産党の主張をなぞるようなことを言い出した連中とは同じになりたくない。

アップルデイリーは潰されましたが、立場新聞などの独立メディアやこの中にも出てくる大学メディアは着々強まる規制や圧力の中でなお奮闘しています。それもいつまで続けられるかわからないですが、せめて見続けようと思います。

 

 

事態は悪化し続けている

 

vivanon_sentenceこういった報道に出てくる香港の人たちがしばしば口にするのは、デモや集会が禁止されただけでなく、密告制度が徹底して、日常的にも政府批判ができなくなった閉塞した空気です。中国共産党や習近平を悪く言うだけで捕まったり、それだけで学校や会社にいられなくなったりはしないにしても、民主化運動に関わった人たちは今でも逮捕されるリスクがありますから、そのことを察知されないように黙るしかない。

大学内の一斉メールでも、「武漢肺炎」「武漢ウイルス」といった用語が使用できなくなったという話を前に書きましたが、こんなことでも現に密告するのがいるわけです。日本にだって、これらの言葉を差別用語だとして中国共産党の旗振りをするのがいて、まして香港の大学には本土から来ている愛国心に満ちた中国人学生や教員がいるでしょうね。

こういった萎縮が本当に怖い。ナチスの時代もそうだったように、元共産党員、元社民党員など目をつけられやすい人たちの中から、積極的にナチスに忠誠を誓って生き延びようとするのが出てきます。こうして昨日まで信じられていた人が信じられなくなって、疑心暗鬼になるのです。そういう状態こそ、支配する側にとっては望むところです。

 

 

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