松沢呉一のビバノン・ライフ

ラーメンを食べようと決めた時はうまい寿司よりまずいラーメンを食った方が満足度が高い—「ラーメン頭」の考察[上]-[ビバノン循環湯 607] (松沢呉一)

20年以上前に巨乳マニアのサイト「東京トップレス」用に書いたもの。

図版は食い物に関するものを適当に撮ってきたもので、それぞれとくに深い意味はなし

 

 

「ラーメン頭」に支配された時はラーメンを食うべし

 

vivanon_sentence「おいしいラーメン屋があるよ」

「行こう、行こう」 と皆で盛り上がって、目当ての店に行ってみたら定休日。

「なんだよ」

「じゃ、寿司食うか。この近くにおいしい寿司屋があるんだよ」

「いや、まずくてもいいから、ラーメン屋に行こう」

こういうことを誰しも経験しているだろう。時には「高い寿司をおごってもらえることより、家でインスタントラーメンを食った方がいい」ということにさえなる。

この状態を私は「ラーメン頭」と呼んでいる。どうしてもラーメンを食べたい状態のことだけでなく、寿司でも焼肉でもカレーでも、特定の食い物に頭を支配された状態の総称としても「ラーメン頭」という言葉を使う。

「ラーメン頭」になっていると、どんなにおいしかろうと、いまさら寿司や焼肉じゃ魅力を感じない。同じく「寿司頭」の時は寿司を、「焼肉頭」の時は焼肉を、「カレー頭」の時はカレーを食わないではいられないし、こういう時は素直に頭に従った方が無難だ。

酒飲みの場合、「アルコール頭」になりやすく、飲むはずだったのが飲めないとなると失望は大きい。また、「ワイン頭」になっていると、ウイスキーでも日本酒でもなく、ワインが飲みたい。「獺祭頭」になっているのに、「品切れです」と言われると店を移りたくなる人もいるだろう。銘柄まで絞り込んだ「頭」が作られているのである。

同じことは店単位でも起きる。「吉野家頭」になっていると、他の牛丼屋では満足出来ない人もいるだろう。

コーヒーを飲もうとして自販機に金を入れる。ホットを押したつもりなのにアイスコーヒーが出てきた時にも失望がある。「ホット頭」になっているためだ。直前まで「どっちでもいい」と思っていても、「頭」は短時間に作られてしまうので油断は禁物だ。

 

 

パツキン頭

 

vivanon_sentence「ラーメン頭」はエロでも起きる。

「今日はセンズリだ」と思ってエロ本を買い込んだ時に、以前ハメたことのあるコからメールが入る。

「ねえ、今日の夜、暇じゃない? 彼氏とデートの約束だったのに急に出張になったんだって。久々に遊ぼうよ。朝まで一緒にいられるよ」

でも、センズリするために断ったりして。「センズリ頭」だからである。

10年以上前からの知り合いが、先日、こんなことを言っていた。

「おかしなことなんだけど、ホテトルを呼んで、韓国人が来ると、ガックリする」

彼がこんなことを言うのは確かにおかしい。なにがおかしいかというと、彼は韓国やタイによく遊びに行っているくらいにアジアが好き。エロの対象もアジア人が好きで、コリアンバーにも足繁く通ったことがあって、時々鶯谷にまで行って韓国人専門のホテトルを呼んでいるくらいだ。

「いいんだよ、今時の日本人の若い子とは違って、やむにやまれぬ事情でやってますって健気な雰囲気で」

なんてことを言っていたくせに、「日本人頭」になっている時に韓国人が来ると減点になる。もちろん逆もあって、韓国人専門のホテトルを呼んでいるのに日本人が来たらやっぱり減点になる。

「ヘンなの」と思うけれども、それぞれ「日本人頭」「韓国人頭」で解釈すると理解しやすいし、私もこの気持ちに近い状態になるる。

地方都市に行って風俗店に入ったら、「横浜出身で、先月まで東京のヘルスにいたんですけど、事情があって東京を離れました」という標準語の娘が出てくるとチェンジしたくなる。

渋谷にある外国人専門のヘルスには日本人もいる。この店、以前は外国人がいない日本人だけのヘルスだったのだが、昨年から外国人も入れるようになった。ほとんどは南米出身者だ。そうこうするうちこちらの方が売りになったため、専門店としてリニューアル。もともといた日本人のコたちは次々に辞めていき、1名だけ日本人が残っている。

写真を見る限り、このコがいいんですよ。なのに私はこの店に行った時、このコを指名しなかった。だってこの店に行く以上、「パツキン頭」になってますからね。日本人が次々辞めていったのは「パツキン頭」の客ばかりが来るようになって、稼げなくなったからだ。

 

 

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