松沢呉一のビバノン・ライフ

イランのプロテストの特性をもっともよく体現している女学生たちの大反乱—撲殺されたサリーナ・イスマイルザデと銃殺されたハディス・ナジャフィ-(松沢呉一)

 

欧州議会でもアンチ・ヒジャブ・プロテスト

 

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一昨日、欧州議会アビル・アル・サラーニ議員が議会での演説中に髪の毛を切りました。

 

 

 

彼女はイラク生まれのスウェーデン人。もともと髪の毛が短いのであんまり迫力がないですが、ヒジャブ・プロテストは留まるところを知らず、もはやEU全体を席巻したと言ってもよさそうです。

あまりに犠牲者が多くて、プロテスト側も簡単には後退できない。なにしろ10月4日の時点で少なくとも154人が治安部隊に殺されています。なんでこんなに殺されるのかって話ですが、治安部隊は最初から殺す気だからです。

 

 

治安部隊は殺す気で実弾を撃っている

 

vivanon_sentenceアムネスティ・インターナショナルが9月30日付で出した報告書によると、イラン国軍の司令官は、「デモ隊に対して、容赦なく対決すべし」と命ずる文書を治安部隊に出していました。この文書をアムネスティは入手して暴露。つまり、「殺せ」、少なくとも「殺していい」ということであり、アムネスティは写真や映像を分析して、治安部隊は殺すことを前提に、至近距離での狙い撃ちを繰り返していることも明らかにしています。

私も治安部隊があまりにデモ隊と近いところで実弾を平行撃ちしているので、「こいつら狂ってる」と思いましたが、国軍全体、政府全体が狂っているのでした。

また、公衆の門前で警棒で死ぬまで殴られたケース(下に具体例が出てきます)や、警察署内で死んだケースも多数あって、それらはすべて同じ命令のもとでなされています。「殺せ」と。

154人というのはノルウェー・オスロ拠点のNGO「イラン・ヒューマンライツ」が公開している数字です。対して、アムネスティのカウントでは52名と控えめですが、これは9月19日から25日までの1週間の数字だからです。

アムネスティは、名前まで判明していて、その人物が実在したことが確認できる写真などを入手し、親族、友人らに聞き取りをして、死亡が確認された数のみをカウントしていて、実際にはもっと多いだろうと付記しています。期間から考えて、イラン・ヒューマンライツの数字もおおむね合っていそうです。

昨日付けの「アムネスティ」のニュースによると、9月30日、スィースターン・バルーチェスターン州で少なくとも82人が殺されたとのことです。この数字が出てくる前にも、同州では16人または19人が殺されたとされていたのですが、これとはまた別に82人です。イラン・ヒューマンライツもこれはカウントしていないはずですので、トータルでは200人を超えていそうです。

※2022年10月4日付「Iran Human Rights

 

 

説教しに来た職員を追い返すあばずれJKたち

 

vivanon_sentence欧米で暮らすイラン人やイスラム圏出身者が、今いる場所の常識に照らして怒るのは理解しやすいとして、マッサ・アミニの死を契機に、なぜ今回イランではああも巨大なプロテストになったのか。これについてはさまざまな人が論じているのですが、大きな役割を果たしているのはインターネットであり、だから政治に無関心と思われてきたZ世代が主導しているとの解説がよく出ています。

たしかに女子学生たちが中指を立てるのは欧米流、ニカ・シャカラミの普段着はパンク風。ヨーロッパに住む人たち、あるいは日本に住む人たちと同じ文化を享受してきた人たちが、ヒジャブのつけかたごときで逮捕され、殴られ、殺されていいわけがないと感じるのは当然でしょう。その異議申立てをインターネットで簡単にできる世代が立ち上がっています。

イランのあばずれJKたちこそが、今回のプロテストの特性を体現していると言えます。

 

 

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