「戦争を批判するメディアだからすべて正しい」なんてことはあり得ない—ロシアを脱出したTVレインがまたも存続の危機[7](最終回) -(松沢呉一)
「拭いきれないロシア中心主義—ロシアを脱出したTVレインがまたも存続の危機[6]」の続きです。
TVレインに落ち度があったことは認めるしかない
ウクライナでは、親ロシア政権だった2012年に、強い反対を押し切って制定された「国家語政策原則法」によって、その言語を話す住民の率が10パーセントを超える地域で、公用語のウクライナ語ではない言語を準公用語として使用することが認められますが、2014年のマイダン革命で「国家語政策原則法」が撤廃されています。このことが「ロシア語を話すのはロシア人である」「ロシア人は言語を奪われ迫害されている」としてロシア侵攻の口実とされました。
こういうことをロシアはやりますから、ラトビアにおいてロシア語を公用語にしようとするロシア系住民の動きに神経を尖らせているのは当然であり、そのために放送法でもラトビア語対応を義務化しているわけです。
BBCの報道によると、ラトビアの国家安全保障局は、「「ロシアのいわゆる独立系メディアが活動をラトビアに移転するさまざまなリスク」について繰り返し警告していると述べた」と報じています。この警告はTVレインに対して直接になされたものではないでしょうが、その警告通りに違反を重ねてしまったTVレインに問題がないとは思えない。
自動翻訳ができない設定だったため、私はTVレインを観ていたわけではなく、はっきりしたことは言えないですが、ロシアでは潰されるに足る内容だったにしても、ラトビアの事情に無神経すぎたのではないか。
脱北者に対して韓国政府は1年かけて洗脳を解きます。これに対して、脱北者が「他の国から来た人に対してはこんなことをしない。不公平で馬鹿げている」と批判したら、韓国政府も国民も怒るでしょ。「だったら来るな」と。
現に韓国に馴染めず、北朝鮮に戻る人たちが後を断たないわけで、北朝鮮に戻る理由はそれだけではないにしても、洗脳は強烈で、自力ではリセットできない人もいます。それを克服するための期間と再教育プログラムが必要。
北朝鮮はあまりに特殊であって、ロシア人の場合、そこまで厳しくなくてもいいでしょうが、ロシアのメディアが「ラトビアのメディアとまったく同じに扱え」と要求するのは傲慢すぎます。
✳︎2022年12月7日付「BBC」
論点が噛み合っていない
「メデューザ」の声明は誰でも署名できるのですが、私は署名しませんでした。
声明の中で、TVレインの落ち度に触れて、TVレインに対しても改善することを求める一文が入っていればよかったのですが、それがない。つまりTVレインは悪くなくて、ただただラトビア当局に非があるという内容であって、とても同意できませんし、こういうことをやっているからラトビアの人たちが反発するってことを「メデューザ」も理解していない。彼らもまたロシア中心主義から逃れていないと思います。立場上、そうするしかなかったのかもしれないですが。
それ以外でも、民主派ロシア人の見方はおおむねTVレイン寄りです。
ラトビアのテレビ局 tv3のサイトの2022年12月7日付の記事では、ナワルニーがTVレインの意義を語ったTwitterを取り上げています。
1/3 I'd like to express my support for @tvrain. It's an honest independent media outlet that I've been working with since its inception. They confidently condemned Putin's war against Ukraine and became a source of truth about it for millions of Russians. For this, I admire them.
— Alexey Navalny (@navalny) December 7, 2022
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