松沢呉一のビバノン・ライフ

商店街で公然と部下のオッパイを揉む上司を目撃—男の乳をいじりたがる女はどこにでもいる-(松沢呉一)

 

 

男のオッパイ揉む

 

vivanon_sentence夜10時台、東中野ギンザ通りを歩いていました。実際に私が利用したことのある店はそう多くはないですが、この通りにはうまそうな飲食店が軒を連ねています。

 

 

そんな店のひとつである居酒屋から5人か6人の集団が出てきました。金曜日ですから、仕事のあとで「一杯飲んでいくか」になったのでしょう。

20代半ばと思われる紅一点、谷山美咲係長(推測)はえらく上機嫌で、ふらつく足取りで目の前にいた新人の阪井翔太君(推測)の後ろから抱きついて、「男のオッパイ揉む〜」とニッコニコしながら、坂井君の胸に両手を伸ばしました。彼女はコートを着ていますが、ボタンをしていないので、男のオッパイを揉むのと同時に自分のオッパイを背中に押し付けてます。

阪井君は逃げようとして、足を前に出すのですが、谷山係長は体重をかけているので、ほとんど進めず。

谷山係長は「男のオッパイ揉む〜」とまた言ってしがみついています。阪井君は今年入社が決まって、現在は研修期間中なので、怒ることもできず、なされるままです。

他の男たちは谷山係長を止めるわけでもなく、「さ、どうしようか。もう一軒行く?」てな感じで話しています。たぶん谷山係長の酒癖の悪さはいつものことなのでしょう。

楽しそうな職場だなあと思いながら、私はその横を通り過ぎたのですが、会社の上司から(上司かどうかわからんけど)、ああいうことをされたら不快になる男も多いはず。とくに私は酒を飲まないので、酔ってベタベタしてくる女はでえ嫌いです。人によりけりであって、仲がよければ大丈夫ですけどね。

阪井君が不快だったとしても、あの場で「やめてください」と言えない気持ちはわかります。せっかくの楽しい雰囲気が台なし。とくに阪井君は研修期間中ですから、下手なことを言うと、入社取り消しになるやもしれない。そんな立場じゃなくても、阪井君の苦痛は理解されにくい。彼は女嫌いのゲイかもしれないですが、職場でカミングアウトしてないですし。

上司や同僚に相談しても、「男なんだから我慢しろ」と言われたり、「今度乳を揉み返せばいいだろ」と軽くあしらわれそうです。

もし男女が逆だったらどうでしょう。「女のオッパイ揉む〜」と男の課長が研修に来た新入社員(予定)の乳を揉みつつ、股間を尻に押し当てたら、あの場にいた男たちの誰かが止めるでしょう。彼女が職場で総務に訴え出たら、乳揉み上司は懲戒処分必至です。また、それを見かけた通行人だって警察に通報しかねない。

 

 

女のオッパイを揉む

 

vivanon_sentence「話題になるセクハラ事例」「裁判になるセクハラ事例」はほとんどが男が加害、女が被害なのに、「セクハラを経験しているか否か」を問うと、女が加害、男が被害の数字の方が多いという調査が出てくる現実を垣間見た気分です。アンケートでは「言葉によるもの」が多くて、谷山係長みたいなのはあんまりないですが、ああやって陽気に抱きつかれるのはまだましで、2人でいる時にデートを誘われたり、「私のこと、どう思っている?」とか言われる方がきつい。

江戸川区の50代女性区議が20代男性の元秘書に強烈なセクハラをやっていたことに対して訴えられたとの報道が出ていて、区議は秘書がいたことはないと証言しているなど、食い違いがあるため、名前は出さないでおきますけど、女が被害者の場合に比べると、男が被害者の場合はあまり取り上げられないように思います。この件を報じたのは「フライデー」だけかも。区議だと扱いが小さくなるのは避けられないとしても、相当にひどいセクハラですから、男が加害の場合と同程度には報じられていいのに、そうはならない。

セクハラは被害者の女性が訴え出ないため、表面化するのは氷山の一角と言われますが、それは男も同じ。むしろ泣き寝入りしているのは男の方が多いかもしれない。

 

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