松沢呉一のビバノン・ライフ

サンクトペテルブルクで軍事ブロガーが爆殺された—ウクライナ工作員説とロシア内部抗争説-(松沢呉一)

 

プリゴジン経営のカフェで爆発

 

vivanon_sentence前回を出したすぐあとで、サンクトペテルブルクで爆発があったとの報道が流れていたので、急遽もう一本。

その時の報道より、以下の方がリアルです。

 

 

 

軍事ブロガーのヴラドレン・タタルスキー(Владлен Татарский)は、プリゴジン所有のカフェで開かれたイベントにスピーカーとして呼ばれ、会場で渡されたプレゼントが爆発して、タタルスキーは死亡、25名が負傷。上の動画に出てくるプレゼントが爆発したものかどうかは不明。あれだけの爆発が起きて、よく1名の死亡で済んだものです。まだ増えるかもしれないけれど。

タタルスキーを狙ったものだとされており、Telegramのフォロワーが50万人以上いて、従軍記事も書いていたとは言え、ウクライナ軍にとってメリットがあるとは思えないのですが、BBCによると、彼はドネツク出身のウクライナ人で、武装強盗をやって逮捕され、出獄後に反体制運動に参加して、2014年に分離独立派としてウクライナ軍と戦っており、併合後に自動的にロシア人になったようです。

今回の戦争で従軍記者として参加した際に銃を手にしていたとの証言も出ており、ウクライナにとっては裏切り者であり、敵兵に等しい。ロシアの従軍記者たちは銃を手にしたり、ロシア軍に参加するようなことをせず、形だけでも客観的なスタンスを崩していない中では異例な存在であり、純然たる民間人とは言えないかと思います。

ロシア軍はウクライナ軍のテロとしていて、ウクライナ軍はロシア国内の内部抗争であることを示唆。タタルスキーはワグネル派で、その立場から、ロシア政府の弱腰を批判。ロシア正規軍とワグネル軍との対立が激化し、ウクライナでは両軍が戦闘をしたとの話まで出ており(信頼できる報道は見つかりませんでした)、プリゴジンを牽制するためにFSBが工作した可能性もゼロではない。両者の対立を煽るためにウクライナ軍の秘密工作員がやった可能性もゼロではない。SNSで目立っていたために、パルチザン化した反戦派が腹を立てた可能性もゼロではない。

どれかわからんですが、サンクトペテルブルクでの爆発で、いよいよロシア国内は不安定になっていきそうです。

 

 

ロシア軍は兵隊不足も深刻

 

vivanon_sentenceついでにここまで書くきっかけがなかったことを書いておきます。

プーチンは動員令で数十万人が国外に逃げたことに対して、「裏切り者は出て行け」なんて言っていたわけですが、ロシア社会は相当に大きな損失を被っていて、とくにIT関係では人材が枯渇していると伝えられています。

国外に出ずに国内で身を潜めて、仕事を続けている人もいるようです。

 

 

ナチスドイツで身を隠したユダヤ人のように、屋根裏や地下室で隠れている人たちはきっといるだろうと想像していますが森に隠れた人もいるのか。さすがロシアだし、さすがどこでも仕事ができるプログラマーです。太平洋戦争の際に、日本でもこういう人がいたとの記憶もありますが、今の日本では難しそうです。

こういう人は少ないですが、その再現になることを恐れて、以前から噂されていた第二次部分動員に踏み切れずにいて、兵士は完全に枯渇しているようです。

ロシア軍の戦死者は7万人と言われていますが、当面再起できない負傷者を入れると、17万人を超えるとも言われ、さらに行方不明者や投降者を入れると20万人以上の兵士が失われたという計算もあります。その中には多数の将校やチェチェン、シリアなどで実践を経験してきた人たちが含まれているため、数ヶ月の訓練を済ませたところで、動員兵では埋めきらず、今はとくにバフムトで大量の兵士が死んでいます。

これまでは全域の死者を合計してロシア軍の戦死者は1日千人前後が続いていて、これでも十分多いわけですが、最近はバフムトだけで千人近くが死んだとされる日もありますから、兵士不足は深刻です。

そのため、動員ではなく、半ば強制の志願兵という方法を編み出しています。

ちょっと前の報道ですが、以下で詳しく説明されています。

 

 

28分40分くらいから、TVレイン(ドシチ)のジャドコ編集長が「隠れ動員」について解説しています。

 

 

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