松沢呉一のビバノン・ライフ

「機密文書」に書かれたパルチザン—プーチンと闘うためにウクライナに亡命したヤクーツク人の元ロシア軍将校-(松沢呉一)

 

「機密文書」漏洩の真意がわからない

 

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ウクライナ戦争に関する米国の秘密文書が大量に漏れたという話を知ってすぐに「ウクライナの反転攻勢を成功させるために、米国がわざと偽情報を仕込んだ文書を流したな」と思いました。その可能性はなおあるのですが、あまりに稚拙な数字の改竄があって、これではロシアは信じない。

ロシアが諜報活動によって入手した情報を出すことで、米国に対して「すべてお見通し」とアピールしたのだとしても、やはり改竄部分の説明がつきません。私ごときでは真相はさっぱりわからんです。私だけでなく、専門家と言われる人たちもわからない様子です。

TBS「報道1930」もこの話題を取り上げていますが、結局のところ、真相はわからず、

 

 

高橋杉雄・防衛研究所防衛政策研究室長は、他のところでもゲーマー向けのサイトDiscordで漏れたことに着目した発言をしています。案外深い意味などなく。米国諜報機関の中にいるゲームオタクが承認欲求を満たすために漏らしたのかもしれないと。これまた改竄があることの説明がつかないですが。

番組では、その機密文書にも出てくるパルチザンを取り上げていて(44分から)、ヴォロジーミル・ジェムチュゴフという元パルチザンの証言が貴重です。パルチザンマニアにはたまらない。

彼は2014年からパルチザンをやっていたとのことで、場所の説明がないですが、クリミアでしょう。地雷で両腕を失って、現在はパルチザンの育成に従事。

ロシアは手をこまねいているだけではなく、早朝、村にやってきて強硬なパルチザン狩りをする。その結果として相当数のパルチザンが捕まっていて、最大規模だったヘルソンの15人のグループが捕まって壊滅。今残っているのは3、4人程度のグループだとのこと。ナチス・ドイツ時代の地下組織も少人数が適していたのと同じ。3人か4人いれば、車に爆発物を仕掛けるくらいはできます。

クリミアにしても、併合4州にしても、親ロシアの住民が多いですから、密告が怖いというのもリアルであり、組織が大きければ大きいほど、敵の情報網にかかりやすいのです。

ここに来て盛んに暗殺、爆発が各地で続いているのは、ウクライナによる反転攻勢が間近なためでしょう。小泉悠が言うように、パルチザンの活動が盛んになると、目前のウクライナ軍だけでなく、背後のパルチザンからも守らなければならないので、ロシア軍の力が分散します。

爆弾を仕掛けるようなパルチザンは捕まえられるとして、情報だけをウクライナ軍に提供するパルチザンは潰しきれないため、ロシアはヘルソン州の住民を移動させています。ロシア国内に移動させるのでしょうが、そういう人たちの中から、ロシア国内で活動するパルチザンが出て来るので、ロシアはパルチザンの拡散に手を貸しています。ざまあ。

追記:機密情報を漏らした容疑者はマサチューセッツ州の州兵だとのこと。高橋杉雄説が正しかったようです。州兵の下っ端がどうして国家機密にアクセスできたのか不明。

 

 

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