松沢呉一のビバノン・ライフ

ユーロヴィジョン2023決勝に進出したクロアチア代表Let 3の「Mama ŠČ!」-今年の注目エントリーをいくつか—(松沢呉一)

 

クロアチア代表Let 3がユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2023の決勝に進出

 

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本来であれば、昨年優勝のカルーシュ・オーケストラを讃えて今年はウクライナで開催するはずだったユーロヴィジョンですが、ああいう状態ですから、今年はリバプールで開催されています。

以下は一昨日9日に行われた第一準決勝で話題になったクロアチア代表のLet 3

 

 

タイトルやフレームの青と黄色がウクライナカラーみたいですが、青黄赤がユーロヴィジョンカラーであり、第一準決勝統一のデザインです。

ママはバカに恋をしてトラクターを買った」という歌詞からして、ママはプーチンにトラクターをプレゼントしたベラルーシのルカシェンコに重なり、言うまでもなくバカはプーチンです。

その相手のことを歌っているのだと思いますが、「小さなサイコパス」という表現もあります。プーチンの身長は公称170センチということになってますが、実際にはもっと低いと言われていて、ヨーロッパ基準ではチビです。

それに対して「僕は戦いに行く」というのがサビです。戦地に動員されるロシア国民の意味にも聞こえるし、鉄道戦争をするベラルーシのパルチザンの心情を歌っていると思えなくもない。

そのロシアとベラルーシは今年も参加不可なのはどうなんかと何の関係もない日本から異議を唱えておきます。

現実のルカシェンコは、ロシア国外の元首としては珍しくモスクワの戦勝記念パレードを見物してましたが、そのあとの食事会に出ずに急遽帰国。例年、自国で戦勝記念の演説をするらしいのですが、それもキャンセル。相当体調が悪いようです。

あるいは煮え切らない態度にプーチンがキレて、飲み物に毒を入れたかもしれないですが、ルカシェンコは積極的にプーチンに従いたいわけではなくて、ギリギリのところで綱渡りをしているので、精神的ストレスが溜まってきたんじゃないですかね。

 

 

結成から30年以上のベテランバンド

 

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この曲でLet 3は無事決勝進出の10組に選ばれました。これと第二準決勝に残った10組とを合わせた20組で決勝が争われます。

タイトルの「Mama ŠČ!」のŠČはどちらもクロアチア語独自の文字であること以上の意味はないとメンバーは言ってますが、「シチ」と読んで、「いいえ(No)」の意味もあることはあるみたい(通常、「いいえ」の意味は「Ne」「Net」)

以下は同曲のMVです。

 

 

サムネイルにある「Voyna Njet」の文字は「戦争反対」の意味だと思いますが、クロアチア語ではないですし、ロシア語でもないです。

彼ら自身はこの曲について「政治的な曲ではない。ただの反戦の歌だ」と言ってます。

Let 3は、リエカ(Rijeka)市のバンドで、リエカはパンクの拠点都市。つっても、昔っからLet 3はそんなにパンクでもなくて、泥臭い系のブログレが臭ったりもします。

1986年に、ヴォーカルのPrljaことゾラン・プロダノヴィッチ(Zoran Prodanović)とベースのMrleことダミール・マルティノヴィッチ(Damir Martinović)でLet 2を結成し、間もなくメンバーが加わってLet 3に発展。つまりは、ソ連崩壊前からのキャリアです。

これまでに10枚のアルバムを発表。1997年の5枚目のアルバム「Nečveno」は音が一切入っていないCDですが、350枚を完売しています(一般に売り出されたのが350枚で、プレスしたのは500枚らしい)。これは欲しくなります。

コンセプチュアル・アートと言ってますが、実際のところは曲ができず、レコード会社との契約をクリアするために作ったんじゃなかろうか。知らんけど。

彼らは猥褻な表現がたびたび物議を醸していて、ステージで全裸になって捕まったこともありまい。銀杏ボーイズか。

ユーロヴィジョン用のアー写でも、白いパンツに大股開きっておかしいべ。ソックスにプリントしているのは新しい学校のリーダーズの影響か。

 

 

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