壮大な経歴詐称が暴かれたジョージ・サントス米下院議員が当選取消にならない理由—懲戒の基準[52]-(松沢呉一)
ジョージ・サントス下院議員の華々しい虚言と犯罪疑惑
どこの国にも一定数虚言者がいます。
米国の例。
「アメリカン・ドリーム」という言葉は、移民の貧しい家庭で育って教育も受けられなかったのが、小さな雑貨店を始めたところから商才を発揮して、30年後には一大小売店チェーンに育て上げ、市長に立候補して当選したような人物やボクサーやラッパーとして成功した人物に対して使われる言葉であって、この報道を見ただけではどこがアメリカン・ドリームなのかさっぱりわからない。
ジョージ・サントス(George Santos)議員の虚偽が発覚し始めたのは昨年のことであり、今回改めてニュースになっているのは、過去の犯罪が次々発覚したことによるものです。どこがどうしてアメリカン・ドリームなのかはとっくに報じられていたために省いたのかもしれないですが、私は知らなかったため、検索してみました。
ジョージ・サントスの祖父母は、ウクライナに住むユダヤ人だったのですが、迫害を受けてベルギーに逃げ、そこでも迫害されてブラジルへ。父母はアメリカン・ドリームを夢見て米国に移住。ユダヤ系ブラジル移民というわけです。ジョージ・サントスはその子どもとしてクィーンズで生まれます。移民の多いエリア。
かつジョージ・サントスは同性愛者であることを公言しながら、議員になる前に上流階級入りしていたことをもって、自ら「アメリカン・ドリームの完全な体現者」と称していたとのことです(2023年5月9日付け「BBC」による)。
それならたしかにアメリカン・ドリーム。
しかし、公開されている上のプロフィールも相当に怪しくて、ユダヤ系である証拠は今のところ見つかっておらず、彼自身はカトリックです。
同性愛者であることは事実であり、意外にも立候補の段階で公言して下院議員に当選したのは初らしいのですが、当選後にセクハラ疑惑も持ち上がっていて、同性愛議員史にとんだ汚点を残しました。
詳しい事情がわかると同時に、中林美恵子・早大教授の言う「共和党の支持者はアメリカン・ドリームを成し遂げた人を好む傾向がある。彼はそれを狙って票が取れる要素を盛り込んだのではないか」との説は成立しそうにないことも判明。というのも、ジョージ・サントスは、政治家になる前から、噓にまみれていました。
2008年にはブラジルにいて(現在34歳の彼は当時20歳前後)、盗難された小切手を使って金を引き出した容疑で捜査されていたのですが、当人の行方がわからなくなって逮捕に至りませんでした。おそらく米国に逃げたのでしょう。
彼は米国において13の容疑で訴追されているのですが、そのいくつかは詐欺容疑です。口からでまかせの人間であり、ブラジル当局も捜査を復活させるとのことです。政治家になる前からの嘘つきであり、根っからの詐欺師です。
なぜジョージ・サントスは経歴詐称で当選取消にならないのか
スタジオで語られているように、それらの容疑がかけられていても、推定無罪の原則により、現時点で共和党としては処分しない方針です。これはそんなにおかしくはなくて、中林教授が解説するような「共和党と民主党が競っている」との事情がなくてもそうすることが多いのではなかろうか。
「懲戒の基準」シリーズで説明してきたように、企業であっても、「どの段階で懲戒処分にするのか」はさまざまで、時間がかかる場合でも判決が確定するまで待つのは少数ではあれ、本人が否定している場合は、慎重になる企業は少なくない。不当解雇として訴えられかねませんので。
また、ジョージ・サントス議員に対する刑事訴追の容疑は、すべて政治家になる前だと思われるので、一層慎重になってしかるべきです。
それよりも、番組の中でも出ているように、「日本だったら選挙公報に虚偽を掲載したら公選法にひっかかって当選取消もあり得るのに、米国にはその規定がないのか?」ってことが私も気になりました。
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