松沢呉一のビバノン・ライフ

破綻のない説明よりも、破綻した糞理論が大事だってか—上野千鶴子の粗雑な論をありがたがるのはもうやめれ[1]-(松沢呉一)

もうちょっと先に出そうと思って書いていたのですが、数時間前に間違って、このシリーズのうちの2本を未完成のまま公開してしまいました。数名は読んでしまったみたいで、まだ図版を入れてないのですが、とっとと公開することにしました。

 

 

上野千鶴子の謎理論

 

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今年になってからのクレアの食速報はだいたい観てますが、それまで観てなかった回をYouTubeがプッシュしてきます。

先日、この回をプッシュされました。2021年1月1日のものです。

 

 

元旦だけに大変おめでたい学者のおめでたい理論を取り上げております。

クレアさんは上野千鶴子を「京大名誉教授」と紹介していて、単なる読み間違いでしょうが、後半で言っているように、彼女は上野千鶴子のことをよく知らないようです。彼女に限らず、今の30代以下だと、上野千鶴子の存在は過去の存在になっていて。暇空茜に訴えられて初めて存在を知った人もいます。その際、YouTuberの中には「うえのちづるこ」と言っているのもいました。周りにも上野千鶴子の著書を読む人はおらず、その存在を知っているとしても、「ツイフェミの親分」みたいな扱いです。その扱いで間違ってないことは以下を読めばわかります。

その程度の存在である世代にとっては、おかしな点が目につきやすく、批判も容赦がない。クレアさんは「謎理論」を滔々と述べる上野千鶴子を笑いながら軽快に批判していきます。

「謎理論」が発表されている2021年12月25日付「NEWSポストセブン」をチェックしましたが、あまりに粗雑です。「上野千鶴子氏に聞いた「美しい人に『美人』と言ってはいけない理由」(以下「上野千鶴子氏に聞いた」)は謎理論というより糞理論です。なんの役にも立たないどころか。女の言動を抑制するものでしかありません。「週刊ポスト」はこんなもんを掲載したのかあ。これまたおめでたい週刊誌だなあ。

1年半前のものであり、クレアさんが的確に批判しているので、その上批判を重ねる必要はないのですが、上野千鶴子に限らず、この手のことを言いたがる人々の欠陥が見事に出ていますし、フェミニストと言われる人々に広く共通する欠陥が見えやすいので、私も丁寧に見ていくとしましょう。

 

 

より破綻のない説明が可能なのに、わざわざ無理のある論を展開する上野千鶴子

 

vivanon_sentence上野千鶴子氏に聞いた」のリード部分にこうあります。

 

2021年は、「女性蔑視」が厳しく追及される騒動が続いた。五輪組織委会長だった森喜朗氏は「女性がたくさんいる理事会は時間がかかる」と発言して辞任に追い込まれ、静岡県の川勝平太知事も「学力と容姿」を結びつけた発言で大炎上した。女性蔑視は許されないが、違和感があったのが、福島県相馬市長の立谷秀清氏が連合の芳野友子会長を「美人会長」と呼んで謝罪に追い込まれた一件ではなかったか。

 

「立谷秀清市長は芳野友子会長を美人と褒めたのに、何が問題だったのか」というのがこの記事のメインテーマです。

このリードにクレアさんは、自身が食速報で取り上げた「戸城梨香」「ファミマのお母さん食堂」「オンライン・セイフティ・ネットワーク」「温泉むすめ」などを加えています。つまり、2021年は、「女性蔑視」が厳しく追及される騒動があったのと同時に、「女性蔑視」を名目とした鬱憤晴らしのような軽率な行動が目立った年だったとも言えそう(「ファミマのお母さん食堂」は不適切とすることにわずかに同意しますけど)。

こういった軽率な行動を支えるのが上野千鶴子のような学者ですし、「週刊ポスト」のようなメディアです。

クレアさんがまず批判的に取り上げているのは上野千鶴子のこの発言。

 

「すでに『ブス』という言葉がタブーになりましたから、その対極にある『美人』も言っちゃダメというのは、論理的にも当然のことですよね」

 

上野千鶴子はルッキズムでこの件を語っていて、見た目で人を評価する行為は一律に差別として否定されるのだという考えをもっています。その論からすると、褒めても同じだと言いたいようですが、上の引用文だけではそれがわからないし、そもそもこの件はルッキズムなり差別なりで説明するのが適切なのかどうか。

「バカ」と言ってはいけないからと言って、「賢い」と言ってはいけないわけではないので、論理的ではないとクレアさんは言ってます。一律に「容姿については触れてはいけない」ということであれば少しは納得できると続けていて、その場合は「論理的に」当然性別を問いません。女が言ってもダメ。上野千鶴子とまったく逆です。

この問題はクレアさんの言うように「容姿について軽率に触れてはいけない」というマナーとしてとらえた方がスムーズで、それをフェミニズム文脈で語ろうとするところに無理が生じているのです。

 

 

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