松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスワーカーの労働組合STRASSの結成—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編4]-(松沢呉一)

フランスでの廃止主義(道徳主義)に抵抗する自由主義のフェミニストたち—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編3]」の続きです。

 

セックスワーカーの労働組合STRASSの登場

 

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自由主義のフェミニズムが台頭してきたこととリンクして、2009年、セックスワーカーの労働組合STRASS(Syndicat du travail sexuel)が結成されています。

STRASSの代表であるマリカ・アマウシュ(Malika Amaouche)は人類学で博士号を持つ研究者であり、自由主義のフェミニストです。

当初目標としていたのはサルコジ法の廃止でしたが、現在に至るまでSTRASSは、セックスワーカーのサポート、路上でのデモンストレーション、セックスワークについての調査、国際的なネットワーキングを続けています。

ヨーロッパのセックスワーク関連の団体を代表する存在のひとつであり、これ以降、STRASSを無視して、フランスのセックスワーク状況を語ることは難しい。

 

 

Fières d’être putes(売春婦であることを誇りに思う)』

 

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STRASS結成の2年前、2007年に、Maîtresse Nikita/Thierry Schaffauser編『Fières d’être putes(売春婦であることを誇りに思う)』という本が出ています。

Amazonの紹介文にはこうあります。

 

Non, nous n’avons pas de proxénètes.

Non, nous n’avons pas été violées dans notre enfance, ni par la suite.

Non, nous ne sommes pas toxicomanes.

Non, nous n’avons jamais été forcées de nous prostituer.

Non, nous n’avons pas d’angoisse post-traumatique.

Non, nous ne sommes pas malheureuses.

Oui, nous avons une vie sentimentale.

Oui, nous avons des amies et des amants.

Oui, nous sommes engagées dans la lutte contre les discriminations.

Oui, nous exerçons un métier stigmatisé.

Oui, nous avons choisi ce métier.

Oui, nous voulons les mêmes droits que tous les citoyens de ce pays.

Nous sommes des putes et nous en sommes fières !

 

いいえ、ポン引きはいません。

いいえ、私たちは幼少期にもその後もレイプされませんでした。

いいえ、私たちは麻薬中毒者ではありません。

いいえ、私たちは売春を強制されたことはありませんでした。

いいえ、私たちには心的外傷の不安はありません。

いいえ、私たちは不幸ではありません。

はい、私たちは情緒のある人生を送っています。

はい、私たちには友だちや恋人がいます。

はい、私たちは差別との戦いに全力で取り組んでいます。

はい、私たちは非難されている職を持っています。

はい、私たちはこの職業を選びました。

はい、私たちはこの国のすべての国民と同じ権利を望んでいます。

私たちは売春婦であり、それを誇りに思っています!

 

本の表4にもほぼ同じ文章が書かれています。

この本は多数の著者による共著で、エッセイではなく、批評的なものだろうと思えますが、『ワタシが決めた』に通じるものがありそうです。

ワタシが決めた』では、執筆者が「私」に徹して自己決定した体験や現在を綴ることで、「風俗嬢」という集団を決めつけたがる世間の見方に対抗する本です。ただの軽いエッセイとして読んでいただければいいのですが、結果として一「私たちはバラバラです」を見せるコンセプトです。

対して『Fières d’être putes』では、個別のテーマをひとつひとつ否定していく内容のように思えますが、言いたいことは一緒です。「思い込みで語るな」と。

たとえば冒頭の「ポン引きはいません」は、セックスワーカーの背後にはポン引きを筆頭とする男の存在がいて、その男に強いられているという思い込みを否定しているのでしょう。

今の日本で言えば、ホストが背後にいると。そういうのもいるのは事実ですけど、一度として行ったことがないのも多数います。

ホストクラブに行くのは客の意思です。その決定ができない18歳未満は接待営業では入場させてもいけないと風営法で定められています。18歳以上であれば、男がキャバクラにハマって金を貢ぐのは自己決定、対して女がホストにはまるのが被害者という論理はおかしくないかってことです。なぜ女は自己決定ができず、つねに被害者にしかなれないのか。仁藤夢乃は答えよ。

次の「私たちは幼少期にもその後もレイプされませんでした」は「セックスワーカーは幼い頃に性被害を受けていて、そのトラウマから、性行為を繰り返す」という決めつけを否定するものです。現実にこういうことを言う人たちがいます。かつて朝日新聞の記者が私に向けてそういうことを言い出してブチ切れたことがあります。私が会ったことのある新聞記者の中でもっとも愚劣な人です。

そんなデータはどこにもなく、逆にそれを否定するデータがあるのに、「こんな仕事をするのは性被害のせいに違いない」との思い込みを語る新聞記者。

本を読んでもいないのにこれ以上語るのは適切ではないので以下略。

 

 

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