松沢呉一のビバノン・ライフ

買春者処罰を実現させるための報告書3334号のズル—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編5]-(松沢呉一)

セックスワーカーの労働組合STRASSの結成—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編4]」の続きです。

 

 

報告書3334号

 

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2011年12月、買春者処罰を含む新しい法案が提出されます。

これに先立って、ダニエル・ブスケ(Danielle Bousquet)とギ・ジェフロワ(Guy Geoffroy)によって、大部の報告書が提出されています。3334号とナンバリングされたこの報告書は全文公開されており、自動翻訳で飛ばし読みしただけでも、ひっかかる点がありました。

3334号の冒頭に、「1990年代初頭には、外国人売春婦は20パーセントに過ぎなかったのが、現在では80パーセント以上になっている」と書かれています。のちに詳細な数字も出てきて、外国人売春婦の内訳はバルカン半島などの東ヨーロッパが64パーセント、ナイジェリアなどアフリカ大陸が23パーセント、ブラジルなどラテンアメリカが10パーセント、中国などアジアが3パーセントとなっています。

これがフランスの売春婦(putain)の数字として出ているのですが、街娼の数字としか思えません。前回見たように、2000年代に入って、フランス人セックスワーカーは急速にインターネットによる客探しに転換し、屋外に残ったのは言葉ができない外国人や高年齢の街娼たちなど、インターネット対応が難しい人たちでした(高年齢の場合、必ずしもPCやスマホの操作ができないということではなく、ポータルサイトでは写真を出すのが通例となっていることが障害となる。その点、屋外の暗闇であれば皺までは見られない)。

これはサルコジ法によって警察に捕まるのは圧倒的に街娼であり、公的に捕捉される売春婦は街娼になってしまって、それ以外の業態によるセックスワーカーたちの数字を見極めるのが難しい事情もあるのだと推測できるのですが、だとしても、あくまで街娼についての数字であることを明示しなければならず、ここから導き出させる法規制は街娼に限定したものにすべきです。

おそらく調査者(廃止主義者たちです)は、意図的にそこを混同させたのだと思われます。つまり、「フランスの売春者は外国人が中心であり、そのために人身売買の被害者の率が高い」との論を展開していきます。これによって「売春婦は弱者であり、被害者であり、救済しなけばならず、その客はことごとくが罰せられるべき存在」という先入観を植え付けるためです。

スウェーデンの先行例から、買春者処罰は、セックスワーカーの生活をも困窮させ、かつ命さえも脅かすことになることは明らかだったわけですが、一般の人たち、あるいは政治家の無関心を喚起させた可能性もあります。殺されたところでどうせ外国人であり、しばしば違法滞在者であり、客も多くは外国人だから、捕まえて強制的に国外退去させれば一石二鳥。

世論調査では、買春者処罰に賛成していたのは4人に1人に満たなかったのに、ごり押しされたのは、おそらくこのことが関わっていると私は推測しています。これは国民の過半数が売春を容認していた一方で、過半数がパンパンを否定していたのに乗じて、売防法をごり押しした日本のやり方と通じます。

 

 

STRASSによる報告書批判

 

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報告書3334号に対しての批判として、仏語 ウィキペディア「Propositions françaises de loi visant à pénaliser les clients de la prostitution」に、STRASSのスポークスマンであるモルガン・メルトゥイユ(Morgane Merteuil)の言葉が紹介されています(2016年にスポークスマンを辞任)。元はFRANCE24のインタビューですが、YouTubeには見当たらないので、Wikipediaから引用します。いまいち意味がわからないところがあるのですが、自動翻訳のままです。

 

この文章は誤った報告に基づいています。 フランスにおける売春に関する議会の事実調査団の議長を務めた社会党議員ダニエル・ブスケが提出した報告書は、売春と性的搾取を混同しています。 同氏は、売春婦の90%が外国人で人身売買の被害者であると主張しています。 でもそれは間違いです!  路上売春は今日の売春のほんの一部にすぎません。

また、外国人労働者のすべてが人身売買の被害者になるわけではありません。 実際には、レポートが示唆しているよりもはるかに多くの独立した女性がいます。 ネットワークを攻撃したい場合は、他の解決策があります。 たとえばオープンボーダー。 なぜなら、多くの外国人女性が、自分たちをフランスに連れてきた密航業者と契約した借金を支払うために、路頭に迷っているからです。

さらに、ダニエル・ブスケの報告書は200人の証言に基づいています。 しかし、面接を受けたセックスワーカーは約 15 人だけで、そのうちまだセックスワーカーとして働いているのは 7 人だけでした。 他の人は全員…専門家です。

STRASS の数名がダニエル・ブスケ氏にインタビューされましたが、彼女が実証したかった方向に進まないコメントはすべて保持されませんでした。 私は、この報告書はフランスにおける売春の客観的な目録を与えることを意図したものではなく、道徳主義を帯びた売春についての正確な概念を示す方向に進むことを目的としていたと信じています。

 

 

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