フランスの売買春法制史—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編2]-(松沢呉一)
「仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編1]」は韓国の性売買特別法についてでしたが、ここからはフランスが続きます。
フランスが買春者処罰を導入した結果、殺害されたヴァネサ・カンポス
軽くではあれ、スウェーデン方式については「ビバノン」で過去に触れているので、今回はそこにリンクしておけばいいと思ったのですが、そういえばフランスはどうなったんだっけ? 2016年にフランスはスウェーデン方式を採用。この頃までは私も売買春に関する各国の情報を追ってました。
フランスはひどいことになりそうだと思っていたのですが、この頃から私は性風俗への関心を失ってしまいます。私のようなアプローチは需要がなくて、「ビバノン」でもこの手の話は全然人気がありません。
その上、私は同じことを書き続けることが苦手です。もうこの辺でいいかと見切りをつけました。あとはSWASHさんに任せた。これ以降は、何かきっかけがない限り、書かなくなりました。
今回、仁藤夢乃のあまりにデタラメな発言を見て、放置できなくなりました。強烈なきっかけでした。共産党員や新聞記者、ジャーナリストなど、仁藤夢乃を支持する人たちはどうして放置できるのか不思議ですが、この人たちはセックスワークのことなんて調べようとしもしないのでしょう。その点では仁藤夢乃の同類。
この機会に仁藤夢乃を批判しつつ、この何年かの穴埋めもしておきたくて、フランスの買春者処罰についての情報を辿りました。
YouTubeで真っ先に出てきたのはヴァネサ・カンポス(Vanesa Campos)というセックスワーカーが殺害された事件でした。
ヴァネサ・カンポス殺害事件は2018年。これはフランスの報道ですが、おそらく数年あとのものです(公開されたのは昨年ですが、製作年は不明)。
もともと買春者処罰に対しては多くの反対が起きていました。フランスのセックスワーカーの労働組合であり、「ビバノン」にも何度か登場しているSTRASS(Syndicat du travail sexuel)を筆頭としたセックスワーカー団体や支援団体はもちろんのこと、これまた「ビバノン」には何度か登場している同性愛者の団体ACT-UPのフランス版などの各種人権団体やフェミニスト団体、さまざまな文化人たちが反対してきたわけですが、ヴァネサ・カンポス殺害を契機に、いっそう反対が強まっています。
フランスの話なのに証言はなぜスペイン語なのかなど、気になるところがありましょうが、詳しくはのちほどやります。
第二次世界大戦後のフランス売春規制史
本題に入る前に、フランスの売買春に対する法規制史について説明しておきます(以下はおもに2020年10月16日付「openDemocracy」掲載「How the Nordic model in France changed everything for sex workers」と仏語版Wikipediaのいくつかの項目とその参照元をまとめたものです)。
まず用語の説明です。売買春の規制をしたがる勢力を「規制主義(réglementation)」「道徳主義(moralisme)」と呼んでいるのはわかりやすいとして、「廃止主義(abolitionnisme)」という言葉もよく使用されます。最初、私は勘違いしたのですが、これは法規制を廃止するのではなく、「公娼制度を廃止する」という意味から始まってます。
「廃止主義」はマルト・リシャール法に始まります。「ビバノン」ではお馴染みですね。
マルト・リシャール法(Loi Marthe Richard)に名を残したマルト・リシャールは、それと前後して、経歴が噓だらけであること、窃盗団と関係があることなどが明らかにされ、パリ市議は一期で終わっています(そもそも市議になる資格がなかった可能性が高い)。
戦後フランスの売春規制は稀代の虚言者から始まったことを記憶しておきたい。
マルト・リシャールは市議でしたから、直接には市内の公娼制度を廃止することを目指していたのですが、1945年に法案が可決され、以降、彼女は国に対して公娼制度廃止の法を働きかけて、翌年可決されています。
虚言者だからと言って、また、市議になる資格がなくても、彼女が提案した法が無効になるはずもなく、これによって公娼制度は廃止となり、177の公娼地区と黙認されていた地区を合わせた195ヶ所にあった約1,400の売春宿が閉鎖となります。これはマルト・リシャール法が公娼だけでなく、管理売春を禁止したためです。つまり廃止主義は公娼制度の廃止から、管理買春の廃止を含むようになります。
※マルト・リシャール著『私は女スパイだった』の表四より、飛行機乗りとして人気があった頃のマルト・リシャール。この経歴は詐称ではないようです。
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