松沢呉一のビバノン・ライフ

イアン・ハンプトンとジョン・ライドンが語るジミー・サヴィル—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[6]-(松沢呉一)

慈善活動家にして稀代の性犯罪者、ジミー・サヴィル—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[5]」の続きです。

 

 

BBCに責任はあるか?

 

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ジミー・サヴィルの性犯罪についての報告書「独立調査委員会の報告書(THE DAME JANET SMITH REVIEW REPORT)」(2016)は、先行の「英警察の捜査報告書(Giving Victims a Voice)(2013)の5倍以上のヴォリュームがあります。それだけ詳細ということもありますし、「独立調査委員会の報告書」は犯罪そのものの検証とともに、もうひとつ大きなテーマがBBCから求められていたためでもあります。

もうひとつ大きなテーマは「BBCの責任」です。ジミー・サヴィルを長年にわたって起用してきた、それどころか、ジミー・サヴィルを生み出したと言っていいBBCは、生前、一度としてこのことを取り上げたことがない。犯行の多くは番組を利用する形で行われ、BBCの楽屋でもなされていたのに、番組関係者は誰も気づいていなかったのか? 気づいていて黙っていたのか?

性犯罪については、プライバシーへの配慮もあるし、公開する報告書で行為の細部を描写するわけにはいかなかったのに対して、BBCに対する調査はより詳細です。

巻末には調査対象となった人物リストが23ページにわたって掲載されており、被害者については名前が伏せられていますが、BBCの局員や外部スタッフはフルネームやBBC内の役職、役割が記載されています。

そして、結論は「BBCに責任なし」。「依頼者であるBBCに忖度してないか?」と疑ってしまいます。英国でもそのような批判が出ました。

ここでの「責任」の意味は法人としての法的な責任です。自覚的に犯行に加担し、追及を意図的に放棄して隠蔽をするなどして、被害者への補償義務が生じるような責任であり、その基準は「部長以上の上級職が性犯罪の事実を知っていたかどうか」です。

独立調査委員会の報告書」の範囲では、部長以上の上級職は性犯罪の事実に気づいていなかったように思えるのですが、この点についても批判が出ています(下記参照)。

独立調査委員会の報告書」の通りだとしても、公共放送の社会的責任は別途論じられるべきです。また、確証まではなかったにしても、知る機会があったのに対応しなかった下級職のスタッフには個人としての責任がありましょう。

独立調査委員会の報告書」でも、その地位を問わず、「子どもの保護についてより大きな関心があり、懸念すべき噂を追及することにもっと熱心に取り組んでいれば、発見できたかもしれない」としています。

 

 

スパークスのベーシスト、イアン・ハンプトンの証言

 

vivanon_sentenceでは、その「発見」につながったかもしれない糸口をいくつか確認していきましょう。

日本でも人気があったスパークスは、「トップ・オブ・ザ・ポップス」に15回ほど出演していました。

1970年代の半ば、ベーシストのイアン・ハンプトンは、 ジミー・サヴィルが10代の少女とセックスをしたとの噂を聞いていて、ジミー・サヴィルがBBCの楽屋に、会場に来ていた少女を連れ込むのを2度目撃、そのことをジミー・サヴィルではない司会者とプロデューサーに教えるのですが、「バカなことを言うな」と聞く耳を持ちませんでした。

このことをイアン・ハンプトンはジミー・サヴィルの死後に告白。

 

 

 

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