松沢呉一のビバノン・ライフ

慈善活動家にして稀代の性犯罪者、ジミー・サヴィル—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[5]-(松沢呉一)

TBSの検証を検証する—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[4]」の続きです。

 

 

トップ・オブ・ザ・ポップス」の司会者は英国史上最悪のペドフィリアだった

 

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前回埋め込んだTBSの自社検証では、BBCの音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」や子ども向け番組「Jim’ll Fix It」の司会者だったジミー・サヴィル(1926〜2011)の性犯罪に話をつなげて番組を終えています。

ジミー・サヴィルとはどういう人物なのかについては、知っている人も多いでしょうから、ここでは繰り返さないですが、知らない方はWikipediaを見てください(日本語版より英語版の方がうんと詳しい)。

ジミー・サヴィルは、番組を直接・間接に利用して、子どもから大人までの男女に、性的虐待、強制猥褻、強姦を繰り返していたことが死後明るみに出て英国社会は騒然とします。

子どもの体を触る、キスをするに留まらず、8歳の子どもを強姦までしていますから、ジミー・サヴィルはペドフィリアであったとしていいでしょう。二次元のロリとはまるで別。

しかし、警察のデータでは、女性については、被害者の3割程度は18歳以上であり、年齢の幅が広い。

また、彼は、慈善活動に積極的で、チャールズ皇太子の知己を得て、ナイトの爵位を受勲ししています。

彼が寄付金集め協力した13の病院に出入りして、看護師によると、2歳の入院患者のみならず、遺体にも行為に及んだとされ、対象は生き物である必要もなかったようです。ペドフィリアやネクロフィリアといった分類を超えた存在だったのかもしれない。

慈善、善意、正義といったものが社会に必要であることを私は否定するものではないですが、それをことさらに掲げる人間はひとたび疑った方がいいという教訓がまたひとつ。

ジミー・サヴィルにとっての慈善活動は、自分の欲望を果たすための手段であり、自身を守るための防衛方法だったのだと思われます。事実、彼の悪行の数々が表に出にくかったのは、慈善活動家の顔や政治家、王室とのつながりが影響したことが容易に想像できます。被害を相談しても、「あんな立派な人がそんなことをするわけがない」と諭される。その前に、「あれだけ力を持っている人に楯突いたら、何をされるかわからない」と怯えて、誰にも言えない。

✳︎Alison Bellamy「How’s About That Then? – Jimmy Savile」 死後出された、友人の著者による伝記。稀有な性犯罪者であることについては触れていないよう。葉巻は彼のトレードマーク。

 

 

Giving Victims a Voice」と「THE DAME JANET SMITH REVIEW REPORT」

 

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以下、TBSの検証番組で取り上げていたジミー・サヴィルについての報告書を中心に見ていきます。

報告書はふたつあって、ひとつは番組で「英警察の捜査報告書」としていたものです。ロンドン警視庁と全英児童虐待防止協会の共同調査の報告書「Giving Victims a Voice」(2013)のことでしょう。インターネットで公開されていて、今も読むことができます。

もうひとつは、番組で「独立調査委員会の報告書」としていた「THE DAME JANET SMITH REVIEW REPORT」(2016)です。BBCの依頼により、デイム・ジャネット・スミス弁護士が中心になって調査した報告書です。こちらはBBCがネットで公開しています。

日本語の方がわかりやすいので、ここではTBSに倣って「英警察の捜査報告書」と「独立調査委員会の報告書」とします。

 

 

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