松沢呉一のビバノン・ライフ

BBCのもう一人のペドフィリア、スチュワート・ホール—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[8]-(松沢呉一)

病院でも女子校でもBBCでも犯行は行われた—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[7]」の続きです。

 

 

ジミー・サヴィルの死後続出した被害告白の中に親族もいた

 

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ダンクロフト女子校の生徒たちやノーランズのコリーン・ノーランだけでなく、ジミー・サヴィルの犯罪が確定して以降、被害の告白が続出します。

1980年代後半のことと思われるのですが、ジミー・サヴィルの妹の孫であるキャロライン・ロビンソンは、12歳と15歳の時に、ジミー・サヴィルによって性的虐待を受けたと、ジミー・サヴィルの死後にFacebookで告白。

年齢が合わなくないか? と思ったのですが、1926年生まれのジミー・サヴィルは60代になっていたはずです。妹は50代後半だとして、彼女とその子どもが10代から20代の前半に子どもを生んでいれば全然おかしくないのか。

この告白は本人も予想していなかった反応を引き出しました。心配したり、サポートするのでなく、「一族の恥を晒した」として親族から攻撃を受けたのです。

死ぬまでのジミー・サヴィルは一族の誇りだったのが、極悪な性犯罪者に転落しました。墓は観光地のようになり、同じ墓地に眠る人々の遺族から、「別のところに移転して欲しい」と要請され、親族は墓石を破壊し、棺を移動させ、新しい墓には名前も彫られませんでした。英国では土葬が一般的で、ジミー・サヴィルもそうだったのですが、移転要請とともに、「火葬しろ」という声も寄せられています。墓から抜け出して子どもを襲うか、周りの墓を掘り返して屍姦しそうですから。

ジミー・サヴィルには子どもがいなかったので、親族の中には遺産の配分にありつけると皮算用していたのもいるかもしれないですが、それも被害者への補償として差し押さえられてしまいます。

それまでさんざん「ジミー・サヴィルは親戚だ」と吹聴してきた親族は、一転して「悪魔の血を引く一族」として辛い思いをし、中には「すべて捏造だ」なんてことを言っていたのもいるかもしれないですが、よりによって今度は身内から「裏切り者」が出たことが許せなかったのでしょう。

しかし、このことも大きく報じられて、親族に対する風当たりはいよいよ強まったことは想像に難くない。

✳︎2012年10月29日付「INDEPENDENT」 キャロライン・ロビンソンの告白と、親族による攻撃を報じる記事。写真は落書きされたジミー・サヴィルの別荘。

 

 

自身の利益を守るのは人間の常だが、嘘はいけねえ

 

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この親族の反応はさすがジミー・サヴィルの親族だけのことはあると思えてしまいますが、ほとんどの人間はこういうもの。自分の利益(金銭に限らず、自分の立場、評価、プライドなどを含む)になると思えばジミー・サヴィルの親族であることを喧伝し、損すると思えば被害を告白する親族を叩く。この人たちにとっての親族なんてそんなもん。その前には事実なんてどうでもいい。

BBCの局員たちも同じ。ジミー・サヴィルが力を持っていた頃は彼の悪業には目をつぶる。番組が終わったり、担当から外されたり、解雇されたりするリスクより、自分の立場、地位、評価、生活が大事。告発するのがいたら、自分の利益を破壊する存在として潰す。死後は「知らなかった」「噂では知っていた」として、責任から逃れる。

 

 

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