松沢呉一のビバノン・ライフ

利用を断っていいケース・断らなければならないケースが法で定められている業種—東中野「西太后」の「差別」貼り紙を検討する[3]-(松沢呉一)

感染症予防のために国単位で拒否する数々の実例—東中野「西太后」の「差別」貼り紙を検討する[2]」の続きです。

 

 

銭湯が断らなければならない客

 

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東中野「西太后」を攻撃した中国人インフルエンサーは中国に帰ったようです。逃げたのか、たまたまなのかわからないですが、正義感が強く、差別を憎む彼のことですから、中国にある「日本人と犬はお断り」という看板を出している店に突撃し、ウイグル人やチベット人を迫害し続ける中国共産党への激烈な批判を中国でやるのでしょう。

コロナ禍に広州市で起きたナイジェリア人に対する差別は凄まじいものでしたし、アフリカ大陸における中国人の振る舞いは目に余ります(「昨年広州市で起きたナイジェリア人差別は氷山の一角—脳内地図を修正する試み[4]」あたりを参照のこと)。日本の比でなく、彼の活躍の場が中国には用意されていますので、活動が成果を上げることを心から祈念しております。

 

では今回の本題。銭湯では、「中国人はお断り」なんて張り紙が出ることはありません。風呂の位置づけは文化圏によって様々ですが、日本においての銭湯は、公共交通や宿泊施設、医療機関と同様、ライフラインでありますから、無闇に断ってはいけません。

これについては「小樽温泉入浴拒否裁判」が参考になります。被告の「湯の花」はスーパー銭湯と言っていい施設です。原告は日本に帰化した米人とドイツ人が見た目で外国人と判断された点に留意する必要がありますが、裁判でも、一律に外国人を拒否するのは民事上の不法行為であるとされて原告が勝訴していますから、必要性の高い業種では同様の判決が出る可能性があります。

しかし、どんな時でも客を断ってはいけないわけではありません。逆に入れてはいけない客もいます。

公衆浴場法から。

 

第四条 営業者は伝染性の疾病にかかつている者と認められる者に対しては、その入浴を拒まなければならない。但し、省令の定めるところにより、療養のために利用される公衆浴場で、都道府県知事の許可を受けたものについては、この限りでない。

 

年に何度かヘルペスが顔に出る私は、この規定を自ら守って、かさぶたが取れるまでは銭湯には行きません。直接触れない限りは感染しないですが、念のためです。

多くのスーパー銭湯やサウナ、一部の組合銭湯ではタトゥの客はお断りですが、公衆浴場法でも東京都の公衆浴場法施行条例でも、タトゥに直接触れた条文や、タトゥを含めると解釈できる条文はありませんが、スーパー銭湯やサウナはいわば娯楽施設なので、利用できなくてもさして困らない。対して、銭湯に入れないと困る人がいます。そのため、スーパー銭湯ではタトゥの客はお断りが多く、組合銭湯はたいていOKなのは合理的です。

タトゥを争点として、入浴施設が訴えられたことはないと思われ、もし訴えるのがいたらどういう判決が出るかわからないですが、スーパー銭湯やサウナは不法性が認められず、組合銭湯では損害賠償を命じられるかもしれない。

ただ、長い間、反社会勢力のシンボルでしたし、今なお和彫については切っても切れない関係です。しかし、半グレ系では新しめのタイプを入れているのもいますから、和彫だけNGというわけにはいかない。かといって、「暴力団員か半グレの方ですか」と聞いて、「はい、そうです」と答えるはずがないですから、ざっくりタトゥはNGにする組合銭湯があってもはやむを得ないようにも思います。

ちなみに私は、いろんなタトゥを鑑賞するのが好きで、半年ほど前、銭湯に、色味もデザインも珍しいタイプのタトゥを入れているのがいて、メキシコで入れたそうです。声をかけずに、しげしげと見るのは失礼ですから、声をかけてから、よく見せてもらいました(ここに出したのはその彼のタトゥではないですが、路線は同じ)。

✳︎DEVIANTARTより、メキシコのタトゥが多数出てます。惚れ惚れします。その彼のタトゥにも使用されてましたが、髑髏がメキシカン・タトゥの代表的アイコンです。メキシコには骸骨の祭りがあるように、メキシコの象徴か。

 

 

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