松沢呉一のビバノン・ライフ

飲食店が客を選別していい条件—東中野「西太后」の「差別」貼り紙を検討する[5]-(松沢呉一)

警察が逮捕するとしたら中国人インフルエンサーたち—東中野「西太后」の「差別」貼り紙を検討する[4]」の続きです。

 

 

客の拒否についての法則

 

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これ以降は「GOLD FINGERのトランスジェンダー排除問題」で書いたことの焼き直しですが、あっちには書いてない視点も出てきます。

公的機関が特定の集団を排除することができないのは当然として、民間の場合は選別していい場合があります。国内法や今まで民事裁判になった例を参考にして、客を選別していい条件を整理しておきます。

 

1)命に関わり、生活に大きな支障が出る業種であれば客を選別する余地は狭い。

2)誰もが当然利用できると思える業種・立地・構えをしている店舗や施設であれば客を選別する余地は狭い。

3)客にとって代替がないほど、客を選別する余地は狭い。

4)その個人が店舗、施設、サービスに対する損害や支障を生じさせる可能性が高いほど、選別は容認される。

5)個別に対応する方法がある場合、大きな括りで断ってはいけない。

 

1について。ここまで書いてきたように、命に関わり、生活に支障が出る業種は法で断れる範囲が定められており、医療機関は判例で合理的理由なしに断れないことが定められていますし、医師会の倫理規程もあります。対して、クラブイベントで、ドレスコードがあったり、年齢制限があるのは許容されます。こんなことを医療機関や公共交通機関がやったら一発でアウトであることは理解しやすい。

2について。例えば大通りの路面店であるコンビニが「外国人お断り」とやって訴えられたら負けるでしょう。しかし、誰もが立ち入るわけではない雑居ビルの中にある店であれば客を選別する余地があります(これについては次回詳しくやります)。

3について。刺青が入っている客が大浴場に入れなくても、部屋にある風呂に入れるし、貸切風呂のあるホテルや旅館もありますから、風呂に入ることは可能。しかし、宿泊は断れない。同じく、容易に目的を別の方法で果たせる場合は断りやすい。

4について前々回確認したように、客を断れる条件が限定されている宿泊施設でも、泥酔者は断っていいと旅館業法で定められており、タクシーも同様。酔っ払いは、感染症罹患者の次くらいに、利用を断ることが広く認められている嫌われ者です。

つい先日、路肩にタクシーが停まっていて、傍に警察の自転車があり、警官がシートで寝てしまった客を起こしていたのですが、全然起きそうになかったです。あんな客を乗せたら時間の無駄だし、ゲロを吐かれたら、その日は商売になりません。

特段の定めはないと思いますが、銭湯やサウナ、プールでは「泥酔者お断り」と入口に出ていることがあります。浴槽でゲロを吐かれたり、プールで溺死されても困ります。これも容認される範囲だと思いますが、差別と言えなくもない。泥酔した人が漏れなくトラブルを引き起こすわけではないですから。

感染症の罹患者も同様で、多くのの感染症はつねに必ず他者に感染させるわけではないにもかかわらず、ほとんどすべての業種で拒否していい。医療機関でさえ、対策ができないことを理由に断っていい。感染させる可能性があると判断できればいいのです。

✳︎タクシー求人ドットコム「タクシーあるあるこれは乗車拒否!? 理解しておくべき乗車禁止ルールとマナー」 タクシーの乗車拒否についてのいい記事。「タクシーは乗車拒否をしてはいけない」ということを誤解して、拒否できる例についても乗車拒否だと勘違いする人が多いことを指摘し、丁寧に拒否できる条件を説明しています。差別も同様で、自分の勘、感覚、正義感だけで判断して騒ぐと捕まります。

 

 

改めて「小樽温泉入浴拒否裁判」

 

vivanon_sentence5について。これは「小樽温泉入浴拒否裁判」の判決で指摘されています。

訴えられた小樽「湯の花」ほこういう施設です。

 

 

 

 

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