松沢呉一のビバノン・ライフ

ポーランドの中絶禁止がウクライナ女性を苦しめている—ウクライナ人の1パーセント以上が違法に国を出ている-(松沢呉一)

 

 

中絶禁止のポーランドで起きていること

 

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ポーランドの中絶禁止がウクライナ難民を一層追い詰めていることについては全然報道をチェックしていなかったのですが、最近、VICEがこんなものを出していたため、やっと認識しました。

 

 

改めて調べてみると、4月くらいからずっと記事も映像による報道も出続けています。

ボーランドのカトリック勢力による中絶禁止の動きについてはずっと「ビバノン」で書いてきて、それと闘うフェミニストたちへの支持も表明してきましたが、中絶禁止の法案は可決されてしまいました。

そのまとめ的な内容が「ポーランドのデスボイス系フェミニストを支持する—ポストコロナのプロテスト[ボツ編6]」「ポーランドのカトリックは何を求め、フェミニストたちは何を求めているのか—ポストコロナのプロテスト[ボツ編7]」です。この辺については興味を抱く人はほとんどいないですけど、この機会に讀んでおいてちょ。

この法がここに来てウクライナ難民を苦しめています。

 

 

他国に移動するか、逮捕を覚悟するか、産むか

 

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レイプによる妊娠は、近親相姦による妊娠、出産が母体を危険に晒す妊娠と並んで今も中絶が許されているのですが、自己申告だけで済むなら誰もが「レイプです」「父にやられました」と言えてしまうので、証拠を提出する必要があります。証拠として認められるのは検察官による書類です。つまり裁判に至ってないと認められないようです。ウクライナで被害届けが受理されていて、その記録を持参していればなんとかなるのだとしても、そんな人はほぼゼロです。

ポーランドに着いてから妊娠していることがわかったところで、時間が経っている上に、距離のある場所で証明することは困難です。

そのため、さらに別の国に移動するか、違法な手段を講じて妊娠中絶するしかない。具体的には逮捕覚悟で施術してくれる医師を探すか、堕胎薬を使う。

はっきりしないのですが、中絶薬の使用は中絶が認められているケースに使用できるだけのようで、一般向けの販売はされていないため、国外から取り寄せるしかなく、これをサポートしている団体がいくつかあり、このサポートも違法になる可能性があるようです。

レイプじゃなくても、夫や恋人と離れ離れになって、ただでさえ困窮しているのに、出産して育てることは困難です。すでに子どもを連れているとなおさらです。さらには夫や恋人が戦闘や砲撃で亡くなったとしてもポーランドでは堕ろせない。

隣国のことですから、反対運動が高まっていた頃に、ウクライナでも報道されていたはずですが、無関心だった人も多いと見えて、いざポーランドに避難してからそのことに気づいた人たちもいるようです。

他の国に移動しても中絶可能期間を過ぎていたり、母体を守るために出産するしかない人たちも多いことでしょう。

※2022年7月28日付「Ms. Magazine」 これに関するポーランドの現状をコンパクトにまとめたもの。写真は中絶禁止に反対する昨年のデモの様子。掲げている写真は、母体が危険な状態にあって、すぐさま中絶をすぺきだったのですが、医師が母体に危険であるとの証拠を揃えるのに手間取ったために死亡した妊婦。

 

 

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