女性兵士の権利獲得と性虐待の意外な現実—戦争における「許容されるべき差別」[付録編1]-(松沢呉一)
「国軍内の性虐待と隠蔽工作にネット民が激怒し、38名の軍関係者が起訴や懲戒処分に—戦争における「許容されるべき差別」[後編]」の続きです。これも去年のうちに出したかったのですが、遅くなりました。
米軍への女性進出
第一次世界大戦を機にして、女性の社会進出が進み、婦人参政権を実現する国も増えていくわけですが、最後に残ったのが軍だったとも言えます。米国やフランスなどいくつかの国では第一次世界大戦の段階で通信兵や電話交換主、看護師として軍に参加していましたが、その米国でも戦闘に女性が参加することはできず、一般の兵士として女性が起用されるようになったのは、第二次世界大戦が始まってからです。
兵士不足のため、やむなく役に立たない女性兵士でも数合わせに採用するという側面も強くて、米軍が第一次世界大戦おける通信兵や電話交換主、看護師の採用は、軍人は男性でなければならないとの規則の隙を潜り抜けて、それらの業務は軍人ではないとの解釈で人員不足を補うものでした(Danielle DeSimone「Over 200 Years of Service: The History of Women in the U.S. Military」による)。
それでも各国で男性に混じって女性が法に反して銃を手にして戦うような例はあって、戦う意志を持つ女たちがいたことも否定できません。
第二次世界大戦で初めて女性は正規に軍に採用され、なお同等に扱われるわけではないながら、第一次世界大戦時にに認められていた業務に加えて、車両の運転(補給のための車両に限定されていたでしょうが)やテストパイロットにも採用され、訓練においては、男性兵士と同様の扱いを受けるようになり、時に看護師は戦地に赴任するため、432 人が殉職しています。
第二次世界大戦後、トルーマン大統領は軍におけるすべての部門で人員制限をしつつも男女を等しく採用する法案に署名します。
これにより朝鮮戦争では、12万人の女性が従軍。ベトナム戦争でも1万1千人が従軍。しかし、その多くは従軍看護師でした。
これ以降徐々に変化していくのですが、決定的な変化は、2013年まで待たなければなりませんでした。同年、レオン・パネッタ国防長官が、「女性戦闘員の禁止を完全に解除し、女性軍人が地上戦闘で直接任務に就くことを許可する」と発表。能力があれば最前線で銃を手にして戦闘することも、戦闘機を操縦することも、トップに立つこともできるようになり、人数制限もなくなりました。
そもそも入隊する女性が少ないため、また体力的な性差のため(つまり能力差のため)、同じにはなっていないですが、可能性としてはなんでもできます。
✳︎Danielle DeSimone「Over 200 Years of Service: The History of Women in the U.S. Military」は米国慰問協会(USO/United Service Organizations)のサイトに出ていたものです。米国慰問協会は1941年に結成されたNPOで、よく映画や記録映像に出てくる映画俳優や歌手が軍を慰問する活動をサポートする団体ですが、女性兵士の活動範囲を拡大し、軍ではケアできない女性兵士のサポートもしています。
アリス・ミラーがこじ開けた女性パイロットの道(イスラエル編)
アフリカでも、多くの場合、女性の社会進出と女性の軍人はリンクしており、これをフェミニズムから見て、「男女平等の指針」ととらえ、その立場からは、「女兵士を戦闘に参加させろ」「女も徴兵しろ」と主張することになります。
この視点が間違っているわけではなくて、前回見たwikipediaの「Women in the Israel Defense Forces」を読んで、私がもっとも注目したのは、アリス・ミラーという人物です。彼女はイスラエル工科大学で航空宇宙工学の学位を取得しており、出身国である南アフリカで民間パイロットの免許を取得していたのですが、1993年、イスラエル空軍飛行士官学校に申請したところ拒否されます。正式には、この時まで、イスラエルにおける女性軍人の職務は後方部隊に限られていたためです。
ただ軍のパイロットになりたかったでけでなく、もともと女が戦闘に参加できないことに不満を抱いていたこともあって、彼女は訴訟を起こし、1996年にイスラエルの最高裁判所が違憲判決を出し、彼女は無事空軍飛行士官学校に入学できました。
持病でもあったのか、医学的に不適格とされて、アリス・ミラーは軍のパイロットにはなれませんでしたが、彼女が開いた道を通って次々に女性パイロットが登場していきます。
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