松沢呉一のビバノン・ライフ

フェミニズム視点とマスキュリズム視点による女性徴兵制—戦争における「許容されるべき差別」[付録編2]-(松沢呉一)

女性兵士の権利獲得と性虐待の意外な現実—戦争における「許容されるべき差別」[付録編1]」の続きです。

 

 

国防総省による性虐待についての調査

 

vivanon_sentence国防総省は隔年で軍内の性暴力についての調査をしています。詳細な調査で、私は正確には理解できていないのですが、2022年度に米軍内の性暴力被害者は7,378件が報告されています(物理的な暴力だけでなく、言葉による暴力を含むのだと思われます)。そのうち、軍事裁判にかけられたのは37%。

これを改善するために、起訴の決定に外部の弁護士を関わらせるように、最近規則が改正されたので、この数字は今後上昇していきそうですが、申告さえできない兵士の声は引き続き拾われない。

国防総省はサンプリング調査により、現実には3万5千件以上の性暴力事件が発生したと推測しています。前回取り上げた2012年度の調査では2万6千人でしたから、10年で1万件近く増えていることになります。 

相変わらず、申告数は女性兵士の方が多く、対して推測の数字では男性兵士の方が多い。見事なサイレント・エピデミックです。米軍兵士の男女比は8:2なので、率で言えば女性兵士の方が被害に遭う可能性の方がはるかに高いのですが、沈黙する率は男性の方がうんと高い。

韓国軍内で性暴力事件が多く、また、隠蔽されることが多いのは、女性兵士の数が少ないためだとの指摘もあります。どうしても孤立してしまうわけです。

しかし、女性兵士を増やしても根本的な解決にはなりそうにない。韓国軍における女性兵士は約7%です。3倍近くいる米軍でも解決していない。なにしろ男性兵士の被害が多いのですから当然ですし、孤立していなくても被害は生ずる。

米国での男性兵士への被害の2%は加害者が女性です。性暴力の多くは、上官から部下に対するものですから、女性兵士が増えて、女性が上官になるケースが増えれば、女性上官から男性兵士に対する性犯罪が増えます。

また、米軍の調査によると、男性兵士による女性兵士への強姦を女性兵士が手助けをする例があり、男性兵士のご機嫌を取るためだけでなく、男性兵士を使って、「気に食わない女」を制裁する例もあります。日本でも不良娘が似たようなことをやった事件があったはず。女はつねに全員が善人であるとの思い込みは捨てた方がいい。

女性兵士に対する性虐待については、男女の部隊を分けることで避けられ、それは「容認すべき差別」だと思いますが、半数以上を占める男性兵士への性虐待をどう解消したらいいのか私にはわかりません。

✳︎「Department of Defense Annual Report on Sexual Assault in the Military, Fiscal Year 2022

 

 

男性差別の視点からとらえ直す徴兵制度

 

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最後に、これを書くに当たって読んだ「日経ビジネス」掲載の「「女も戦場へ」は何をもたらすか—兵役という男性差別」が非常に面白く、私に欠けている視点を補足する内容だったので、紹介しておきます。

 

 

筆者の久米泰介氏は翻訳家。久米泰介氏は、「男だけが戦争に駆り立てられるのは男性差別である」という視点から、兵役をとらえています。男性差別に反対するマスキュリズムです。

 

 

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