松沢呉一のビバノン・ライフ

ビートたけしのエピソードと比較する—裁判を前に松本人志終了が決定するまでを振り返る[前編]-(松沢呉一)

 

松本人志選手の第一試合終了

 

vivanon_sentence

「裁判にならんと、判断できんな」と思って松本人志の件はあんまりチェックしてなかったのですが、気づけば裁判が始まる前に、ダブルヘッダーの第一試合は終わっちまった感じやね。

第二試合がまだ残ってますが、第一試合は拙攻で自分の首を絞めた松本人志の完敗。この結果、第二試合で勝てても、トータルではもう元通りにはならない。それがほぼ決定したので、まとめておくかなと。たいていのことはもう誰かが指摘してましょうから、この件をしっかり追っている人は読む意味がないと思います。

昨年末、「週刊文春」が出た2日後か3日後、お笑い業界にも詳しい知人とダベッたのですが、私らの考えはほとんど一緒。

記事の大枠は確定と言っていいでしょう。大枠というのは、ホテルで飲み会があったこと、スピードワゴン小沢一敬が集めた女たちがやってきたことはLINEの内容からして明らか。詳細や内面までは確定しようがないながら、そこで性的な行為がなされたこともほとんど確定。

ホテルに問い合わせても、その日誰が部屋を利用したか教えてくれないでしょうが、「週刊文春」は、証言者に部屋の様子を聞いた上で、その部屋を借りて証言と照らし合わせるくらいはしてそうです。

この大枠に対する私らの感想は「松本人志、だっせえ」というものでした。

若手の芸人が街でナンパをすることもありますよ。先輩に命じられて、後輩芸人が街に出て、ケツの軽い女たちを調達してきて、セックスに至ることもありますよ。その結果、淋病に感染したのもいます。感染した本人がそう言ってました。

相手の芸人は今も活躍してますが、テレビに出始めた頃の話。中堅以上になったら、飲み屋のホステスを口説いたり、愛人を抱えたりすることはあっても、こんな遊び方はしない。

ビートたけしがテレビに出ずっぱりの頃、川崎の高級ソープランドを自腹で借り切って軍団を遊ばせて、自分は待合室で皆が終わるのを待っていたという話があります。これを知った人たちの大半は「おー、太っ腹」と感心したろうと思います。店だって、ソープ嬢だって大喜びです。誰も嫌な思いはしていない。

大物ってこういうもんじゃないですかね。金があるんだから、その金は皆に還元して遊ばせる。自分は他でこっそり遊ぶ。

あるいは、つき合った女と別れる時は、その時に持っている全財産を手切金として渡して、自分はまた一から始める。これを繰り返した昔の芸能人の話を読んだことがあります。誰だったか忘れましたけど、これだと相手もいい思い出になって揉めることはない。

それに引き換え、松本人志の小物ぶりたるや。タクシー代が1万円だの、それすら払わないだの、どんだけみみっちいんだ。

 

 

河原乞食の物差しを今の時代に持ち出す人々

 

vivanon_sentence

今回のことで、「遊びは芸の肥やしであって、世間一般の物差しで叩くべきではない」なんて手垢のついた擁護論を言い出す人たちがいて驚きますが、これについては30年くらい前に粉砕する文章を書いてます。

どこに書いたかも覚えていないので、簡単に繰り返しておくと、そういった論が成立したのは、役者、芸人、踊り手、歌い手などの芸能の世界の人々が河原乞食とされた時代です。明治時代だと、「歌舞伎役者の誰某が、今度は新橋芸者の誰某とねんごろになった」なんて記事が新聞に出ていました。今のように新聞が棲み分けられておらず、一般の新聞とスポーツ紙と夕刊紙の要素が全部掲載されていた時代です。

役者も芸者も、庶民とは別の世界に住む人たちでした。蔑まれる分、一般庶民ではできない行動をしても許される。人気が出れば、一般庶民とは比較にならない収入を得られ、その金を遊びに費やす。

歌舞伎役者だけでなく、新しい時代の舞台俳優が出てきても同じ。帝劇の女優第一期生の森律子は、そのために、卒業した跡見女学校の同窓生たちから、「森律子を同窓会から除名せよ」との声が上がります。そのくらい穢らわしい仕事でした。

活動写真の時代も同じ。昭和初期に文芸春秋社は月刊誌「」を出していて、ゴシップ記事もよく扱われていて、女優の恋愛遍歴が出ていたりしますし、他の実話雑誌では女優自身がそういう話を語っていたりします。こういう人たちであれば、奔放な行動をしてもOK。むしろ、自分らにない自由を実行することを期待される存在だったようにも見えます。

この時代ならわかりますが、今は蔑視されることはなくなり、家族や友人たちが応援してくれることも当たり前になっています。社会問題や政治についても発言し、テレビを介して大きな影響力を持ち、政治家に立候補する人もいます。なのに、一般社会の物差しを拒否することが許されますかね。

 

 

next_vivanon

(残り 899文字/全文: 2849文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ