松沢呉一のビバノン・ライフ

国外脱出が急増しつつある—中国経済の停滞と国民の不満噴出[後編]-(松沢呉一)

中国人観光客の減少と変質—中国経済の停滞と国民の不満噴出[中編]」の続きです。

 

 

米国へ不法入国する中国人たち

 

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もはや中国は、自力では経済危機を逃れられないでしょうから、国外の政府、企業の力に頼るしかない。しかし、撤退した企業が戻る見込みは薄く、不安定な中国株や企業に投資することは二の足を踏みます。共産党独裁が続く限りは無理。国内の投資家もそこはわかってますから、共産党批判をするという流れ。

かと言って、金が動機の人たちが共産党を倒すために闘うとは思えません。ではどうするかといえば、金を持っている層は国外に出ます。これはもう始まっています。

 

 

昨年末から、この件を取り上げている記事や動画が増えていて、この動画も2月に入ってからのものです。中国政府がばらまくウソ、ハッタリ、ごまかしとはまったく違う中国の現実が見えてきます。

昨年、メキシコから米国に不法入国しようとして拘束されたり、追い返されたりした人の数は250万人。もっとも多いのは中南米からのラテン系ですが、アジア系がそれに続き、この動画はその中でも急増している中国人不法入国者を取り上げたものです。

 

 

中国人不法入国者の中身

 

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動画の中では、37,000人の中国人が国境警備隊に逮捕され、一昨年の50倍に増加したと説明しています。一昨年はまだゼロコロナ対策で国外に出ることが制限があったためもあるでしょうが、追い返された人、うまいこと米国内に入れた人たちもいますから、昨年一年で10万を超える中国人がメキシコから不法入国を試みたことは間違いなさそうです。これはメキシコから陸路で不法入国する人の数だけです。

この動画にあるように、国境警備隊も買収されているのか、彼らを黙認。逮捕は米国側でなされています。逮捕されずに米国入国に成功した人の推測値は不明です。推測しようもないのでしょうか。

この動画ではメキシコから密入国をサポートするブローカーの手数料は不明ですが、続編には驚くべき数字が出てきます。

 

 

最大で15万5千ドル!! これは全行程にかかった料金だと思いますが、少なくとも数万ドルはかかりそうです。

2023年11月7日付「Radio Free Asia」に出ている元国有企業の従業員は、12万元(約1万6500米ドル)を友人から借りたと言っていて、それがすべてではなく、自分の手持ちもあるでしょう。

他の方法による不法入国でも同じです。2019年12月12日付「NBC SanDiego」によると、貨物船に密航して米国へ不法入国する際の手数料はラテン系だと1人当たり1万ドル以下なのに、中国人だと4万ドルから6万ドルとされています。これは密航だけの料金だと思われます。足元を見られています。

写真や動画も出てますが、洗濯機や家具の中に隠れて、貨物として運ばれ、貨物として米国に到着。洗濯機の中に人が入っていたら、重さで気づきましょうから、相当数の協力者がいて、その分、金がかかりそうです。中に入るのは積荷時と到着時だけでしょうが、金がかかるし、苦しいしで、陸路の方がいいと思うのですが、成功率は高いのかもしれない。

上の動画の中で20歳の大卒生(中国は飛び級があるので、優秀であればあり得る)が、40日かけて、タイに出てモロッコに行ってアメリカ大陸に渡り、中米のいくつかの国を経由してメキシコに来た旨を語ってます。この通りのルートかどうかわからないですが、彼は自力でメキシコまで来たのかも。

この経路だけでも相当の金がかかり、とうてい貧しい農村出身の人たちでは払えない。動画に見える中国人たちはボロボロの服装ではなく、そのことからも経済的なレベルが見て取れます。農村出身の人たちで不法入国を試みるのは、中南米に出稼ぎに出た人たちではなかろうか。

それを含めて、多くは経済難民です。出稼ぎ組は別として、中国から来ている人々は、今まで相当に稼げていた人々です。彼らは今までのような生活を夢見て国を捨てました。口々に「自由」と言ってますが、多くの場合、「金を儲ける自由」でしかありません。

 

 

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