松沢呉一のビバノン・ライフ

不正選挙という難癖を防ぐために民主党も有権者ID法に賛成すべきかと思う—米国の有権者ID法に対する賛成派と反対派の意見[後編]-(松沢呉一)

人種的マイノリティの投票率が低い理由—米国の有権者ID法に対する賛成派と反対派の意見[中編]」の続きです。

 

 

人種的マイノリティの投票率が低い理由のまとめ

 

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ここまで書いてきたハンディがどれだけ影響しているのかわからないですが、ここで確認すべきことは、もともとマイノリティは、投票率がはっきりと低いってことです。

2018年、2020年、2022年の総選挙で、全国平均の投票率は37%、投票権のある白人国民の投票率は43%。これらのすべてで投票しなかったのは24%。対して、3回の選挙すべてで黒人の27%、ヒスパニック系の19%、アジア系の21%が投票し、黒人の36%、アジア系の31%。ヒスパニック系の47%が3回の総選挙のいずれにも投票しませんでした。明らかな差が生じているのです。

3回とも投票した人の率で見ると、白人←黒人←アジア系←ヒスパニック系の順です。1度も投票していない人の率で見ると、白人→アジア系→黒人→ヒスパニック系となっていて、アジア系と黒人が逆転しています。

総選挙に限らない人種別投票率を見ても、白人←黒人←アジア系←ヒスパニック系の順番になっています。もし差別によってのみこれが決定しているのだとすると、1度も投票していない率の順位はきれいに逆転しならなければおかしい。投票したくてもできないのですから。

この数字は、争点や候補者によって、マイノリティの投票率が増減していることを示唆していて、例えば2018年のジョージア州知事選挙のように、アフリカ系アメリカ人が候補になっている時は投票する黒人が増えるのです。

マイノリティの投票率が低いのは、制度的差別によるところもあるかもしれませんが、それだけではなく、人種によって、関心や動機に差があることが影響しているのであり、それこそが、主たる原因なのではないか。

上のデータは、有権者ID法を施行済みの州が含まれていますが、もともとマイノリティの投票率は低い。言語的ギャップもあるでしょうが、よその国で生まれ育った人たちが移住先で投票しないのは十分理解できます。これは差別とはあんまり関係がない。広く言えば、関心を持つことにおいて、差別が反映されているかもしれませんが、差別とはいえない要因によって生じている可能性を考えるべきです。

✳︎2023年7月23日付Pew Research Center「REPUBLICAN GAINS IN 2022 MIDTERMS DRIVEN MOSTLY BY TURNOUT ADVANTAGE」より。左から「1回も投票していない」「1回か2回投票した」「3回とも投票した」

 

 

人種的マイノリティの投票率が低くなるのは必然であり、解消できない

 

vivanon_sentence米国について言えば、日本人の多くが民主党と共和党の区別ができますが、そういう予備知識のない国に移住して、数年後に選挙権を得たところで投票する気にならんでしょう。例えば私がインドに移住して、投票したいと思っても何もわからん。でも、インド人の友だちがいれば教えてもらえます。日本人コミュニティでも教えてくれる人はいるかもしれないけれど、日本語しかできなければ、投票所の係員にヒンディ語でなんか言われたらどうしようと臆します。

こういった移民のハンディがどうやってもあるのですから、マイノリティの投票率が低くなるのは避けられず、投票率の低さをすべて差別に集約するのはおかしい。

どのデータでも、ヒスパニック系の投票率がもっとも低いのは、ヒスパニック系はより差別されているからでしょうか。あくまで私の感触ですが、その差がそのまま差別に起因する差とは思えず、ヒスパニック系はコミュニティが強固であり、コミュニティに属する率が高いということではなかろうか。スペイン語コミュニティに依存すると、その枠組みを超える意識を持ちにくい。

 

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