柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『日光物語』 え?「宝田明 渾身の遺作!」?  まっすぐ立ってられないので後ろから支えている人が必ずいる・・・

公式サイトより

『日光物語』

監督・脚本 五藤利弘
撮影 はやしまこと
音楽 パウロ鈴木。
主題歌 スネオヘアー
挿入歌 万登香
出演 武藤十夢、スネオヘアー、和泉詩、宝田明、吉永アユリ、九十九一、伊藤克信、大桃美代子、岩瀬顕子、三坂知絵子、大高洋子、ベアーズ島田キャンプ、内藤忠司、万登香

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「宝田明 渾身の遺作!」え? と思われた方は正しい。2022年3月14日に亡くなった東宝の大スター宝田明の遺作として『世の中に絶えて桜のなかりせば』 が公開されたのも記憶に新しいところ。だが実は『世の中に~』の後に撮っていた映画がまだあったとかで、本当の遺作は栃木県日光市発の地方映画だったのだ! たまたま出かけた温泉旅行でポスターを見かけてこの映画の存在を知ってから数ヶ月、ようやく見るチャンスがやってきた。見て驚いたのが宝田明の演じっぷりである。なんと立っている場面では必ずそのすぐ後ろに立って肩越しに顔を見せている人がいる(予告編でもワンカット見えている)。これ、まっすぐ立ってられないから後ろから支えている人がいるってことだよね? いや、これはさすがに……映画を見ていると座っている場面では普通に演技している(出演者の中では自然な方だと言ってもいいかもしれない)のだから、別にこんな無理して路上に突っ立たせて芝居する必要なかったのではないか。本人にとってはそれも幸せだったのかもしれないとはいえ、なんだかエド・ウッドがベラ・ルゴシの遺作を作ってしまった経緯を思い起こさせるような……

 

 

肝心の中身はというと日光のカフェを舞台にした人間ドラマというよくありそうな奴で、ヒロインが元AKB48。『世の中に絶えて~』のほうは乃木坂46だったわけで、なんなんですかこれは。まあ世の中にはグループアイドルのメンバーやら元メンバーやらが掃いて捨てるほどいるというだけのことなのかもしれない。主演はミュージシャンのスネオヘアー、賑やかしのおっさんの一人として伊藤克信が出演していてびっくりしたのだが、実は栃木県日光市出身だということなので、そういう縁なのだろうか。

東照宮近くの古民家カフェ、本宮カフェ のオーナー、大場嘉門(スネオヘアー)は今日も仕事を娘すみれ(吉永アユリ)に押しつけ、趣味の銀塩写真撮影のために中禅寺湖近辺をほっつきあるいている。カフェの常連客たちは「またサボりか」「(写真が)うまくもないのに」と言いたい放題。嘉門は中禅寺湖のほとりで思い詰めたような顔をしている女性(武藤十夢)を見かけ、気になっている。五年前に妻(三坂知絵子)をなくして男やもめ暮らしの嘉門だが、夢に出てくる妻は「もういい人を見つけて……」とか言ってくるそこそこ都合のいい存在だ。

 

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