『初めての女』 こんなタイトルつけてあたかもいい話みたいに語ってしまう無自覚なミソジニーっぷりが、町興しの映画としては完全に失敗しているのではと思わずにいられない
→公式サイトより
『初めての女』
監督 小平哲兵
原作 瀧井孝作
脚本 小平哲兵、桑江良佳、羽石龍平
撮影監督 仁宮裕
音楽 杉野清隆
出演 髙橋雄祐、芋生悠、三輪晴香、藤江琢磨、ジャン・裕一、保坂直希、籾木芳仁、西興一朗
高山市文化協会70周年記念映画! 70年を迎えた高山市文化協会が作ったのが高山出身の俳人瀧井孝作の生誕百三十年を記念した伝記映画。完成したのは数年前で、地元で上映会などしていたようだが、ついに都内公開となった。で、志賀直哉に師事し、長年芥川賞選考委員をつとめたという瀧井孝作がどれほど偉大な俳人なのか、高山市にとってどれほど大事な存在なのかはたぶんわかっていないのだが、この話を見るかぎり――本作は瀧井が晩年に発表した自伝に基づいているらしい――甘えん坊のナルシスト少年でしかないので、功成り名遂げた御老体の昔話にしたってもうちょっと遠慮があるだろう、と言いたくなる夜郎自大ぶり。もうちょっとなんかなかったんですかね……
さて、時は明治末期、高山に住む孝作(高橋雄祐)が母の死とともに十二歳で魚問屋の丁稚になってから5年。孝作は隣家の文学青年に誘われて俳諧をはじめる。海の句を読んで、「自分の経験したことを句にしなさい」と河東碧梧桐(西興一朗)先生にたしなめられたりしている。高山なんかつまらないからさっさと出ていきたい、とぼやいていると、高山にだってモダンな店はあるよ、と友人がそんな西洋料理店に連れて行ってくれる。そこの女中だったのが玉(芋生悠)である。年上の美女玉にすぐに夢中になる孝作、恐る恐る食事に誘うと快諾してくれたうえ、「わたしのほうが年上だし……お金はあるうちに使わないと」と奢ってくれる。魚問屋の先輩からは「出戻りだとか、とかくの噂もある」と嫉妬混じりの陰口を叩かれても「あんな美人じゃあいろいろ言われるわな」と取り合わない。唯一、気になるのは彼女が酒ばかり飲んで、食事を取ろうとしないことである。
今日も今日とて料亭デエトにしけこむ二人。孝作が「義太夫でも聞きましょうか?」と芸者を呼ぶ。やってきた芸者鶴昇(三輪晴香)の「黒髪」に聞き惚れる孝作。実は住み込みで暮らしている魚問屋の裏の納戸部屋から、いつも三味線の稽古が聞こえてくるのだ、と明かすと、鶴昇は
「それはわたしです!」
なんと奇遇な……と盛り上がる二人。寂しそうな笑顔を浮かべる玉のことなどすっかり忘れて「また聞きたいなあ」といい気分になっている孝作である。その帰り道、別れ際に「さようなら……ありがとう」と告げられても
「何を言っていたか覚えてない」
で済ませてしまう孝作である。
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