沖縄に関する「デマ」の真相 4〜 デマを駆使して沖縄の反基地運動を貶める『ニュース女子』は報道なのか?
編集部からのご案内
3月7日 20時〜『沖縄激論 篠原章 vs NO HATE TV』
『沖縄の不都合な真実』(新潮新書)の著者である評論家の篠原章さんをお迎えして、『ニュース女子』問題をはじめとした、沖縄をめぐるさまざまな状況について徹底的に討論しました。
当記事とあわせてご覧下さい。<出演者>
◆篠原章(しのはら・あきら) ※ゲスト
批評.COM主宰・評論家。◆安田浩一(やすだ・こういち)
◆野間易通(のま・やすみち)
■恒例となった『ニュース女子』抗議行動
冷気をたっぷりと含んだビル風が、容赦なく肌に突き刺さる。それでも雨上がりの舗道は多くの人で埋まった。
3月2日夜──東京メトロポリタンテレビジョン(東京MX)の社屋前で、恒例の抗議集会がおこなわれた。同社が放送した番組『ニュース女子』の沖縄報道に対する抗議行動は、この日ですでに8回目を迎えたという。
今回、地元で新基地建設反対運動に参加している秦真実氏とノンフィクション作家の渡瀬夏彦氏の二人が沖縄から駆け付けた。
「許すことなどできない」
秦氏は、そう何度も繰り返した。
「第二次大戦で戦場となった沖縄では、多くの県民が亡くなった。もう二度と戦争は見たくないし、加担したくない。子どもたちを巻き込みたくない。そんな思いで多くの人々が基地建設現場での座り込みに参加している。MXの番組は、そうした人々を侮辱し、そして笑いものにした。許せるわけがない」
沖縄戦では県民の4人にひとりが亡くなったと伝えられる。いまなお身体に、心の中に、傷を抱えた人も少なくない。消すことのできない記憶に苦しめられている人もいる。『ニュース女子』は、こうした人々を「シルバー部隊」などといった造語で嘲笑したのだ。しかも、デマと偏見を動員させて。
「私たちが何をしたというのか。沖縄が何をしたというのか。真剣に話をしても、一部の人々は笑い続けるのでしょう。面白おかしく、伝えていくのでしょう。それでも言い続けたい。ぶつけられた侮辱を絶対に許さない」
怒り。悲しみ。悔しさ。そして無念。秦氏の言葉は様々な色調を帯びながら、揮発することなく都心のビル街を浮遊する。
先月末にはMXによる「見解」が発表されたばかりだ。
同社は当該番組について「一部の過激な活動が地元住民の生活に大きな支障を生じさせている現状等、沖縄基地問題において、これまで他のメディアで紹介されることが少なかった『声』を、現地に赴いて取材し、伝えるという意図」だと前置いたうえで、次のように主張している。
①番組内で使用した映像・画像の出典根拠は明確だった。
②番組内で伝えた事象は、番組スタッフによる取材、各新聞社等による記事等の合理的根拠に基づく説明であったと判断した。
③事実関係において捏造、虚偽があったとは認められず、放送法及び放送基準に沿った制作内容であった。
④本番組は、当社が直接関与しない制作会社で制作された番組を当社で放送するという持込番組に該当。本番組では、違法行為を行う過激な活動家に焦点を当てるがあまり、適法に活動されている方々に関して誤解を生じさせる余地のある表現があったことは否めず、当社として遺憾と考えている。
⑤番組の考査体制に関し、より番組内容のチェックレベルを向上させるため、考査手順、考査体制に関し更なる検討を行う。
⑥再取材、追加取材をもとに番組を制作し、放送する。
唖然とする思いで「見解」を幾度も読み返した。いったいどこを「取材」したというのか。どのような「合理的根拠」があって、反対派への「日当支給」を仄めかしたのか。問題とされるべきは「誤解を生じさせる余地のある表現があったこと」ではなく、まさに「捏造、虚偽」であり、在日外国人などに対してもヘイトの裏書をしたことではないのか。
「情けない。そして恥ずかしい」
渡瀬氏もまた、MXが発表した「見解」をそのように批判した。
「嘘を嘘として認めない。間違いを間違いとして認識していない。しかもこれを”言論の自由”であると、論理をすり替えている。呆れた話だ」
その通りだ。”言論の自由”という理性と悟性は、デマを正当化させるための草藪ではない。言論を生業とする者であるならば、安易に叡智へ逃げ込むな。渡瀬氏が述べたように、それは本当に「情けない」ことなのだから。
だからこの日は私も求められて「デマを駆使して沖縄の反基地運動を貶めるな」と短くスピーチさせてもらった。
■「報道人」とは思えない『ニュース女子』の「取材」手法
MXの見解によれば、再取材、追加取材をおこなう予定だという。
だが、「虚偽を開き直って正当化させる」(渡瀬氏)ような番組に期待する向きは少ない。
実際、番組スタッフは沖縄でも「再取材」を試みているようだが、すでにその手法自体が地元では問題となっている。
スタッフの姿が確認されたのは2月24日。「山城博治さんたちの即時釈放を求める大集会」がおこなわれた那覇市の県民広場でのことだった。
実は、同集会には秦氏も渡瀬氏も参加しており、その様子をずっと目にしていた。
二人の話によると、ハンディーカメラを手にした男性が、集会参加者へのインタビューを繰り返していたという。
「外国人が参加しているのはなぜか」
「日当が支払われているという話があるが、どうなのか」
「ニュース女子についてどう思うか」
そのような質問を投げかけながら、しかし、自らが何者であるかを問われると、「大阪から来た」、「平和集会などに興味がある」と答えていたという。
「名刺も見せないし、おかしいと思い、参加者の一人が問い詰めたのです。すると、そこでようやく『ニュース女子』のスタッフであることを明かしました。しかし、彼は『プライベートで来ている』と主張し、取材ではないとも話していました」(秦氏)
どうにも腰の引けたというか、抜けまくった取材風景しか伝わってこない。
「報道」を目的とする職業人であるのならば、堂々と取材すればよいではないか。意図はともかく再取材じたいは悪いことではない。取材先で疑われ、批判されるのも記者の仕事である。媒体名を明かすこと、引き受けるべき責任をも回避したうえでの取材など、説得力がない。胸ぐらつかまれ、恫喝されたとしても(少なくとも沖縄ではそのような話はまるで聞かないが)、カメラとペンを離さないのが記者というものではないのか。世の中には隠し撮りしかできないような取材現場があることも理解しているが、それを必要とする緊張状態があるとは思えない。
だが、そもそも『ニュース女子』のスタッフが、「報道人」として認識されていないということも、理解する必要がある。
ろくに取材することなくデマと偏見をタレ流した事実は簡単に消せない。番組制作会社のDHCシアターに至っては、「基地反対派の言い分を聞く必要はない」とまで言い切っているのだ(1月20日付同社見解より)。しかも「親北派」「韓国人はなぜ反対運動に参加する」などといった表現で、あたかも在日韓国人等が「運動の黒幕」として存在しているかのような番組内容であったにもかかわらず、人種差別の意図を一切否定している。
紹介するのもはばかれるが、たとえば同社会長(親会社DHCの会長も兼務)である吉田嘉明氏は、DHCのホームページに次のようなメッセージを寄せている。
日本に驚くほどの数の在日が住んでいます
似非(えせ)日本人、なんちゃって日本人です
母国に帰っていただきましょう
政界(特に民主党〉、マスコミ(特に朝日新聞、NHK、TBS)、法曹界(裁判官、弁護士、特に東大出身)、官僚(ほとんど東大出身)、芸能界、スポーツ界には特に多いようです。芸能界やスポーツ界は在日だらけになっていてもさして問題ではありません。影響力がほとんどないからです
問題は政界、官僚、マスコミ、法曹界です
私どもの会社も大企業の一員として多岐にわたる活動から法廷闘争になるときが多々ありますが、裁判官が在日、被告側も在日の時は、提訴したこちら側が100%の敗訴になります(原文ママ)
こうした偏見が臆面もなく語られる企業によって制作される番組に、「テロリスト」だとされた人々が、あるいは在日コリアンが、平常心で取材対応できるわけがない。
私も含めて、取材する側は、常に立ち位置が問われるのだ。
だからこそ私は、取材する権利と自由を訴えながら、しかし、取材される側がそれを拒否する自由と権利があることも承知している。
「ニュース女子」の報道姿勢には、身を斬られても真実に近づきたいという熱も覚悟も、まるで感じることができないのだ。響いてくるのは取材者の足音ではなく、気を惹かんと小突くだけの捨て鐘の音だ。
なお、BPOの放送倫理検証委員会は2月末より「ニュース女子」の審議に入った。MX側の番組考査がどのような状況でおこなわれていたのか、それが適切なものであったのかがチェックされるという。
■一切の質問が封じられた記者会見
これに関連してもうひとつ、報告しておきたい。
2月24日、日本プレスセンター(東京都千代田区)において、「のりこえねっと辛淑玉氏等による東京MXテレビ『ニュース女子』報道弾圧に抗議する沖縄県民東京記者会見」がおこなわれた。
主催者側出席者は、「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」代表運営委員の我那覇真子氏、「沖縄教育オンブズマン協会」会長の手登根安則氏、「カナンファーム」代表の依田啓示氏ら沖縄県民と、元衆議院議員の杉田水脈氏、カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏の5人(肩書はそれぞれ主催者が発表したもの)。
さらに評論家の篠原章氏が司会進行を務めた。
一部では私が記者席に陣取っていたことを「突撃」「潜入」とも伝えられているようだが、公開された会見において、そのようなことはあり得ない。実際、会見前には主催者側とあいさつを交わし、会見出席者の一人は握手を求めてきたのでそれに応じた。少なくとも”出だし”が穏当であったことは事実だ。だからこそ、質問することじたいを封じられるとは思ってもいなかったが。
聞きたいことは山ほどあった。
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