ボブ・ディラン「ミスター・タンブリン・マン」 -なぜ偉大なのかといえば、ディランは音楽と文学を一番最初に繋げた人物なのです(久保憲司)
ボブ・ディラン「ミスター・タンブリン・マン」が何を歌っているかを書く前に、なぜボブ・ディランが偉大かを書きたいと思います。
皆さん、ボブ・ディランがなぜ偉大なのか、実はあんまりわかっていないんじゃないでしょうか?ボブ・ディランの凄さって、言葉で飛ばしてくれることだと僕は思ってます。
ビートルズは音楽で飛ばしてくれましたが、ボブ・ディランは言葉で気持ち良くさせてくれたのです。
デビュー当時のビートルズは、フランスのラジオDJから、ほとんど同時期にデビューしたボブ・ディランのセカンド『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』を貰ってからは、ボブ・ディランばっかり聴いていたそうです。
ジョン・レノンが作った「悲しみはぶっとばせ」は完全にディランの「時代は変わる」に歌詞を変えたような曲です。でも、「悲しみはぶっとばせ」にはディランの「時代は変わる」のような政治性はなく、初期のジョン・レノンらしい失恋ソングです。ジョン・レインはボブ・ディランの政治的な姿勢には全く反応していなかったことが分かます。
ビートルズ、ジョン・レノンはボブ・ディランの言葉の多さに、かっこよさ、文学を感じたのだと思います。
現在のロックでは、文学と並列に語られることは何の違和感もないことですが、ビートルズ、ボブ・ディランがデビューした頃のロックは文学とは程遠いものでした。ロックは低俗で、文学は高尚というやつです。ディランは音楽と文学を一番最初に繋げた人物なのです。
当時のミュージシャンにとって文学(言葉)は遠い存在だった。クリーム、キング・クリムゾンといった今でいうとレディオヘッドのようなインテリ・バンドが自分たちでは歌詞を書けず、ピート・シンフィールドのような歌詞を書く人をやとっていたなんて、今の人には全く想像が出来ないことでしょう。
ビートルズは自分たちで全てをこなすことによって当時の音楽シーンを変えた。ビートルズに感化されたバンドたちはすぐにビートルズのように音楽で、自分たち独自の世界を表現することが出来るようになったが、歌詞については技術的に未熟だったのです。
ビートルズも歌詞の部分ではそれまでのポップスの焼き直しでしかありませんでした(音楽もそうなのかもしれませんが)。そんな新しい音楽シーンの中に言葉を自由に操るように登場したボブ・ディランは神のような存在だったのでしょう。アラン・ギンズバーグのようなビートニックのような詩をマシンガンのように歌うボブ・ディランのかっこよさは今でもなんとなく分かります。70年代に突如登場し、コックニー訛りでメロディを無視するかのように歌いまくるセックス・ピストルズのジョニー・ロットンのような感じだったのでしょう。ボブ・ディランの曲を歌うピーター・ポール&マリーの歌がそれまでのフォーク・ソングのような感じなのに、ボブ・ディランが同じ曲を歌うとそれはマシンガンで撃たれたように心に突き刺さるのです。
ボブ・ディランの映画『ドント・ルック・バック』で14歳とか17歳の若い女性のファンがボブ・ディランに入れあげているのを見るとそれはディランの政治的なメッセージよりも、たくさんの言葉を早口で歌うボブ・ディランのスタイルに恋を感じていたんだろうなと思います。
ボブ・ディランがもしノーベル文学賞をとるとしたら、政治的なメッセージを持っていたからではなく、こうしたポップスに文学を持ち込んだことでしょう。そして、そして、ロックを取り込んだ時代のディランの歌詞のスタイルは、20世紀の最も重要な作家の一人、ジェームス・ジョイスの意識の流れをポップスに持ち込んだからだと思います。
そして、この手法の中からボブ・ディランは未来を予言したのです。それが「ミスター・タンブリン・マン」です。「ミスター・タンブリン・マン」は世の中を変えたいとか、そういう歌じゃないんです。これから若者たちがどうなるかということを歌った歌なのです。
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