久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』 一番衝撃だったのは、バナナの皮を剥いたらピンク色のバナナです。ウォーホールのセンスは天才的です。 [全曲解説(後編)]

前回よりつづく

 

ベルヴェット・アンダーグラウンドのファーストの全曲解説の後半です。このアルバムで一番衝撃だったのは、バナナの皮を剥いたらピンク色のバナナが出てきたことだったです。

デザインしたウォーホールのセンスは天才的です。今は誰も語らないですけど、このアルバムの雰囲気ってウォーホールのアトリエ、ファクトリーのパーティーの雰囲気も色濃いです。ウッドストックとは違った都会の退廃の気持ちよさ、スピードやってギンギンになって何日間も寝ずに頭が高速回転になっている所に全ての情報が均等に入ってくる。スピードをやってない人にはどうでもいい情報もシャブ中にはとっても重要な問題に感じる。そうやって人が見逃していることから、世の中の真実を見つける、見つけた気になる。うまくいった人の例がシャーロック・ホームズですね。悪くなった例が被害妄想とか陰謀論にハマる人ですね。映画『地球に落ちて来た男』でデヴィッド・ボウイが何台もテレビを眺めているシーンがありますが、あれがシャブ中の頭の中です。ルー・リードもすごいテレビを並べてライブしてましたね。昔はそういうのがかっこよかったんです。ライブの後たくさんのテレビの置き場所に困ったルー・リードは会った友達にテレビあげていて、いい奴と思われていたみたいす。79年くらいはテレビがまだ高価な時代だったのです。

そんな退廃もウォーホールがフェミニストのヴァレリー・ソラナスにピストルで撃たれて終わります。この人もスピードで被害妄想になった人ですね。

ヴァレリー・ソラナスの思想SCUMことSociety for Cutting Up Men(男のチンチンを切る会)って名前はかっこいいですけど、言ってることは完全にレイシストと一緒ですからね。元々統合失調症だったのかもしれませんが、やはりレイシスト的な考えから、アンディが自分をコントロールしているという妄想に変わり、アンディを殺すしかないと思ってしまったのでしょう。楽しいパーティーはそうやって終わってしまったのです。セックス・ピストルズのジョニー・ライドンが暴漢に襲われて、彼らがストリートの接点をなくしたことによって、パンクが終わったように、レイシストというのはやはり社会にとって一番の敵かもしれません。

ニヒリスト、ルー・リードはそんなパーティーはクソだと傍観者を装っていましたけど、このファーストにはウォーホールのパーティーのキラキラした部分を感じることが出来ます。あーそんな場所に言ってみたいなと思う人は映画『メン・イン・ブラック3』を見れば、そんな時代へタイム・スリップした気持ちを味合わせてくれますよ、それからこのアルバムを聴くことですね。

 

それかザ・ストゥジーズの「ダウン・オン・ザ・ストリート」を聴くことをお勧めします。

 

イギーがNYの街をドラッグやって徘徊しながら、ファクトリーのパーティーへ向かって、そこで絶世の美女ニコと出会ったことをドロドロにきらびやかに歌ってます。そんなニコが歌う曲がこの曲。

 

 

6 「オール・トゥモローズ・パーティー」

オール・トゥモローズ・パーティーとはもちろんファクトリーのパーティーのことです。その内容の前にこの曲がどうやって作れているかというと、有名なルー・リードのオーストリッチ・チューニングの曲です。オーストリッチ・チューニングとは全部の弦を同じチューニングにする手法で、現代音楽とかドローン・ミュージックではよくある手法です。なんでオーストリッチ(ダチョウ)かというとたぶん、2本の指で弾いていて、ダチョウの足みたいだからでしょう。全部おんなじチューニングだから、一本の指で平行にして抑えれば大正琴みたいに誰でもコードぽい感じで弾けるんですけどね。ルー・リードは2本指で押さえて弾いているみたいです。

ルー・リードはダチョウが好きみたいで、ヴェルヴェット結成前のザ・プリミティヴスというバンドで「ザ・オーストリッチ」というシングルを出していて、こちらはR&Bによくある”ドゥ・ザ・モンキー(猿のように踊れ)とか”マッシュ・ポテト(マッシュ・ポテトこねるように踊れ)”とかと同じヒット狙いの曲で、ダチョウのように踊れという曲です。全然ヒットしませんでしたが。

オーストリッチ・チューニングなんかどうでもいいわという人がほとんどだと思いますが、映画NYの楽器屋のドキュメンタリー『カーマイン・ストリート・ギター』を観てください。

オーストリッチ・チューニングされたルー・リードのギターが鳴らされるんですけど、めちゃくちゃ音がいいんです。全ての弦が同じチューニングだから波長が同じだからすごい感じで共鳴していくんです。この為だけのためでも観る価値ありの映画です。

すごいんですけど、ルー・リードのプレイでオーストリッチ・チューニングめっちゃいい音やなと感動したことないんです。不思議な人です。日本だと一回だけオーストリッチ・チューニングで「ペール・ブルー・アイズ」をやったことがあると思うのですが、この時はドラムがヴェルヴェットのモーリン・タッカーだったんですけど、信じられないくらい音がよくって、感動したの覚えてます。あの感動はヴェルヴェトやってくれたという感動だったと思ってたんですが、今考えるとあれはオーストリッチ・チューニングだったのかなと思ってます。

 

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