久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『Bringing It All Back Home』ヤバいエレキの音がなっていますが、エレクトリック・ギターの音が変わろうとしていたのです。 ロックが誕生しようとしていたのです [全曲解説(1)]

 

難解とされているボブ・ディランのアルバムの全曲解説を。

難解とされていますけど、ディランが自分のことを歌っている歌だと思えば簡単に解釈出来るかなと。日記みたいなものと思えば、ディランが何を考えていたか手に取るように分かります。

アルバム・タイトル『ブリング・イット・オール・バック・ホーム』というのは、ビートルズに取られていたものを取り返すというものです。

とにかくこの時期のアメリカというのはビートルズ・ショックにやられていました。アメリカの若者たちが、イギリスから突然登場したビートルズって、なんだと研究すると、「元々俺たちアメリカ人がやっていた音楽をやっただけじゃん」ということになったわけです。で、ボブ・ディランは急いで楽器屋に行って新品のフェンダーのストラトキャスターを買うわけです。

面白いのはほとんど同時期にビートルズもロード・マネジャーのマルを楽器屋に向かわせて新品のフェンダーのストラトキャスターを買いにいかせます。この頃のビートルズは楽器屋に行く時間もなかったわけです。

そして、これまたほとんど同時期にボブ・ディランが演奏していたようなコーヒー・バーでライブをやっても、全然話題になっていなかったジミ・ヘンドリックスが、キース・リチャードの彼女がキースに許可ももらわず勝手に貸した、今でいうヴィンテージのキースの白いストラトキャスターを持って、イギリスに来るわけです。キースは「この白いストラトなに、イギリスにないで、めっちゃかっこいいやん」と五年くらい古い中古を買って大切にアメリカに置いていたのに。

そうなのです。なんとなく全部繋がっているのです。このボブ・ディランのアルバムでもヤバいエレキの音がなっていますが、エレクトリック・ギターの音が変わろうとしていたのです。

ロックが誕生しようとしていたのです。ロックンロールと呼ばれ、子供の音楽、またはバカな大人のパーティー・ミュージックとバカにされていた音楽はロックと呼ばれる芸術になろうとしていたのです。

どういうことかというと、ビートルズもジョージ・マーティンの言うことをきかなくなり、ボブ・ディランもフォーク界隈の政治的でエスタブリッシュな人たちの言うことを聞かなくなる。『ブリング・イット・オール・バック・ホーム』というのはそういうことを告白しているアルバムです。

一番それを表しているのが、ジミ・ヘンドリックスにも多大な影響を与えた『ジョン・メイオール・&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』通称『ビノ』と呼ばれるアルバムです。

 

 

ここでエリック・クラプトンは普段のライブのようにマーシャルのアンプをフルテンにして普段のステージの音量でギターを弾いたのです。プロデューサーはそんな大音量じゃ録音出来ないとクラプトンに「音を下げてくれ」と頼むのですが、固くなに拒むのです。ハード・ロック、後にヘヴィ・メタルとなる音楽の誕生です。もう大人の意見は聴かない、自分達が信じる方法でやる、それがベストだと。ジャケット撮影で『ビノ』という漫画を読んでいることから、クラプトンの強い意志が感じられます。

こういう時代の変わり目に発売されたのがこのディランのアルバムなのです。

 

でもボブ・ディランはちゃんと商売気を出しておりまして、A面はロックなんですけど、B面は今まで通りのフォークでやっております。ライブも同じで、初めにフォーク・セットをちゃんとやって、その後にロック・バンドとのセットでやるという二部構成スタイルをとっていたので、「ユダ(裏切り者)」と罵られる筋合いではないんですよね。ロック・バンドとのセットが気にいらなければ、フォーク・セットが終わった時点で帰ればいいだけなのに、みんなヤジりたいだけだったのです。SNSでグジャグジャ言っている人と一緒ですね。お金払っているだけ偉いか。

 

 

このアルバムも実は二部構成だと気づいている人は少ないじゃないでしょうか、その違いが分からないくらい、音楽的に理解していないのか、ちゃんと聴いていないのか、ちゃんと聴いてないのでしょうね。

ボブ・ディラン実は変わったようで、何も変わっていないのです。で、ロックでやっているのも、ギターとハーモニカだけでやっているのもどっちもかっこいいのです。

それではボブ・ディランがどんな心境で歌っていたか解説していきましょう。ラップの元祖とも言われる「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」です。

新しいロックの原型を作ったような歌詞です。この曲を元に「パンプ・イット・アップ」を作ったエルヴィス・コステロは「これがロックンロールのやり方、刺激的な言葉をバラバラにして新しいおもちゃを産むだ。それをやっただけだよ」と、分かるような分からないことを言っていますが、でも誰もディランのようにかっこよく出来ない。

 

 

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