久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ニール・ヤング「シナモン・ガール」 ニール・ヤングがなぜグランジの父と呼ばれるのか

 

極上の「フー」ってニール・ヤングの「シナモン・ガール」の「フー」だと僕は思います。

「フー」ってなんやね、「ザ・フーか」ってツこまれそうですが、気持ち良いときに言うあの「ふー」です。

この頃の人は「フー」って言わず、「イエー」とか言うでしょうか。なんせコンサートやフェスには「参戦します」って言う時代ですからね。

自分もパンクでしたから、コンサートなんかで「フー」っていうのは恥ずかしいことだったのです。「フー」って言ったあと、思わず周りを見渡して、誰も俺が「フー」って言ったの見てないなと確認して、また踊りだします。誰も俺のことなんか見てないんですけど、それくらい恥ずかしいことなのです。

パンクというのはツバを吐いたり(僕は絶対吐かなかったですけど)、前の客の肩を揺さぶったりしたりしていたので、あれは一体なんだのかというと、「お前ら変われ」ということだったのです。

これがどんどんエスカレートして、人を殴ったりするハードコア・パンクと呼ばれ音楽となっていったのですが、僕はもうそれはやりすぎだろと、スカーレット・ヨハンセンも出ていた映画『ゴーストワールド』の主人公の名言「私はパンクやけど、ワイヤーやバズコックスなどのインテリなパンクが好きなの」と差別化をはかっていくのです。

 

 

ヒッピー時代のドラッグで飛んでもバキバキにはならず、まさにお風呂に入った時に思わずもらす、「フー」を言ってしまうのはパンクの僕には敵なわけです。

パンクを通過したアシッド・ハウスが、セカンド・サマー・オブ・ラブと言われながらも、「アッシィーーーード」と叫んでいたのは、「シナモン・ガール」のニール・ヤングのように「フー」て言いたくないからだと思ったりします。

「シナモン・ガール」に「フー」がどこにあるか、ギター・ソロに入った時です。時間で言うと2分10秒ですか、究極の「フー」が聴けます。リード・ギターもこれぞニール・ヤングという、テクニックいっさいなし、自分の好きなように弾く、ここではシタールみたいに弾いてます。ニール・ヤング的には自分はチャーリー・パーカーにでもなったみたいに、音に導かれかのごとく、弾きまくっているんだという感じで弾いたはります。で、こんな気持ちいいことはないぞと思わず、「フー」が出てしまったのでしょう。あとで入れているんだと思いますが、リード・ギター弾いている時にマイクは用意してないですよね。でも、マイクが微妙に拾って、エンジニアの人がこの「フー」いいじゃん、と別のトラックにダビングして、イコライザーでめっちゃ聴こえるようにしたんですかね。ニール・ヤング先生に「今の“フー”めっちゃよかったすよ、でもマイクで拾えてないんで、もう一回“フー”だけ録り直させてください」なんて言えないすよね。

 

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tags: Neil Young

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