久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ボブ・ディラン『ハード・レイン』 僕たちとは何なのか、僕たちはどこに行こうとしているのか、ボブ・ディランのライブ観ていると、見えてくるのです

 

 

ボブ・ディランの日本ツアー終わりましたけど、いいライブだったなと。

僕はボブ・ディランの黄金期のライブ、ローリング・サンダー・レヴューの頃に匹敵する感じになっているんじゃないのと思いました。

この時期は『ハード・レイン』っていうアルバムになっているので、よかったら聴いてみてください。YouTubeには映像も上がっています。僕は子供の頃に小林克也のベスト・ヒットUSAで見て衝撃を受けました。

当時は、白いお化粧をしているんで、デヴィッド・ボウイに影響されているとか言われてました。ギターにデヴィッド・ボウイのギターリスト、ミック・ロンソンも入っていますし、僕もそうなんだって、思ってたんですけど、今思うと、この白いお化粧って、インディアンのお化粧なんだと思います。

ローリング・サンダー・レヴューのローリング・サンダーって、有名なインディアンのメディシン・マンなんです。この人、本も出していて、どういう本だったかよく覚えてないんですけど、メディシン・マンとはどういうものかというのを書いた本だったと思います。

メディシン・マンって、日本で言うと漢方薬屋さんとか鍼灸師さんですかね。本の出だしはよく覚えていて、メディシン・マンが一番最初に作る薬はどういうのかということが書かれていました。まずコップを用意して、自分の悪い所を思いながら、そのコップの水に祈る。3日間くらい祈って、その水を飲んで、自分の悪い所が治ったら、それが薬だみたいなことを書かれていて、当時はなるほどと思っていたんですが、今は3日間も水を置いていたら腐らないか、白湯を飲んだ方が、健康にいいぞって思います。

でもなんとなく理屈は分かります。鍼灸をやってもらっていて、思うのですが、自分で治りたいという気持ちがないと治らないと思うんです。鍼灸って本当に凄くって、いい先生だと、食中毒なんかも一片に治すんです。すごい熱いお灸を、足の第二指を裏側に折り曲げ、その指が足の裏に触れる所をインクで印をつけて、そこにするんですけど、初めは鈍感になっていて、何も感じないんですけど、何回もやっているうちに「アッ、チッ、チッ」って感じになるんです。そうするとあら不思議食中毒が治るのです。

鍼灸行くまで、こういうのって、食中毒じゃなく、ずうっとお腹の風邪って思ってました。こんなに食中毒が多いのかって、びっくりしました。コロナの時はお店の人も仕入れが大変だったんだろうなと思いますけど。

でも一番不思議なのは、第二指を足の裏側に折り曲げた所がなんで食中毒に効くねんって話ですよ。ようそんな所が胃に効くって、見つけたなと。千年以上の歴史の中で「そこ違う、そこや」とアップデイトしてきた歴史なんでしょう。

俺もメディシン・マンになりたいと鍼灸の先生に「学校行ったらなれるんすか、どの学校いいすか」って、きいたら、うちの鍼灸の先生は「あかんよ、あいつら、本当に針で病気が治るって信じてないから、なまじっか病気のことを勉強してるから、なんかあったらあいつらすぐ病院に行きよんね」と身も蓋もないことを言うのです。

なんの話をしてるんでしょう。すいません。ボブ・ディランでした。今はちょっとそういうスピリチュアルなことは封印してますね。『ローリング・サンダー・レヴュー』についてはマーティン・スコセッシがドキュメンタリーにしてますが、ローリング・サンダーにはいっさい触れずに、女優のシャロン・ストーンが14歳くらいにこのツアーを見に行って、運良くボブ・ディランに会って、ボブ・ディランに「君みたいな子は白塗りしたミュージシャンはキッスしか見に行かないのかと思ってたよ」とバカにされたので、自分がバカじゃないということを証明するために「歌舞伎の原点といわれる出雲の御国も白塗りしてましたよ」と答えたという作り話をわざわざ作っています。

 

 

あっ、これボブ・ディランの特徴で、作り話をわざわざ作るんです。クロニクルという自伝があるんですけど、これもすごいフェイク・ストーリーが一杯盛り込まれているんです。出だしからこの自伝は嘘ですよというのを明かしてます。プロデューサーと出会った時からどう嘘をついているかということを語っているのです。で、この有名プロデューサーがどうバカかってことを証明するために、彼が僕を評価する一番の理由は「私は嘘のなさを評価する」って言っているって書いているんです。

 

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tags: Bob Dylan

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