久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ハッピー・マンデーズ “Squirrel & G-Man 24 Hour Party” –ショーン・ライダーのあの変なヴォーカルは日本人からきているんです

 

自分でバンドをやるとしたらどんなバンドがいいか、いつも妄想しております。自分がやりたいバンドはハッピー・マンデーズのようなバンドです。

なぜハッピー・マンデーズかといいますと、普通の人間は、ニュー・オーダー「ブルー・マンデー」、ブームタウン・ラッツ「哀愁のマンディ」のように、学校や仕事に行かないといけない月曜日の朝はブルーになります。

 

 

 

 

僕も子供の時は、日曜日の6時半の「サザエさん」のあの能天気な歌が始まると「あー明日から学校に行かないといけない」と憂鬱になったものです。

しかし、学校も仕事も行かないと決めたら、月曜日はハッピー・マンデーとなるわけです。そのかわり、もう人間辞めます、ということになるわけです。

ハッピー・マンデーズのショーン・ライダーはまさにそんな人でした。まだ死んでないですけど。

でも、ロックって、そういうことですよね。どうやって自由にきままに生きていくかです。それでたとえ人に迷惑をかけようとも。今、こうやって書いたのですが、ショーン・ライダーってまさにこれだったなと思うわけです。

でも、この考え方って、パンクの頃にはちょっといけない考えだったのです。

何度も書いていますが、パンクというのは、まずそれまでのヒッピーという価値観を叩き潰すという大義があったわけです。

ヒッピーというのは、それまでの体制に反発を持っていまして、そういうのを壊そうとしたわけです。

家族とか、家父長制とか、そういうものがアメリカとかイギリスという国家を作っている。日本もそうでしょう。でそういう国家が悪いのは家父長制とか家族である、だから僕たちは新しい家族、コミューンを作る、そういう国家がやっているベトナム戦争にも反対するというわけだったわけです。

一番簡単な反抗は髪を伸ばすことだったのです。あと、お風呂に入らないとか、ドラッグをやるとか、肉食をしないとか、中古の服を着るとか、これってよく考えるとお坊さんとかがやることですよね。お坊さん、ドラッグはやらないですけど。

ヒッピーには問題がありまして、これまでの体制を変えるといいながら、暴力とか討論は家父長制みたいなものだろ、だから僕たちは誰とも戦わず、みんなの意見を尊重して平和に生きていくと、今の日本にも残るピース・サインを作ったわけです。

欧米じゃもう誰もしないピース・サインをいまだに日本人がなぜか、写真を撮る時にしてしまうのは、聖徳太子が制定した日本初の憲法の最初の言葉“何事をやるにも、みんなが仲良くやり、いさかいを起こさないのが良いということ”というのが染み付いているからでしょう。

2千年前くらいに起こった仏教の革命が、1967年の欧米で起きたわけです。日本もそれに感化されたわけですけど、日本の場合は、戦争でたくさんの人が死んだのに、また同じような道を歩みはじめていないかということへの反発が強かったのです。しかもそれを指導している政治家たちは戦争中は鬼畜米英といったのに、今はアメリカ様様になっていないかと。

戦争に負けた国ですから、どこよりも早く反省したわけです。勝った国は俺らの戦争正しかっただろって、朝鮮でも戦争をしていたわけですから。ベトナム戦争くらいから「あれ、なんかおかしいな」と気づきだすわけです。だから日本の方が欧米より早く50年代に学生運動などが過激になり、それに反応する感じで欧米もきなくさいことになっていったのです。

トリフォーやゴダールなどが影響を受けたのは、ハリウッド以上に、あの石原慎太郎原作の映画「太陽の季節」などの世に言われる太陽族と言われる無軌道な若者たちを描いた映画でした。戦争に負けて、戦争をやった世代に反抗し、前の世代が戦争みたいなバカなことをやったんだから、俺たちは何をしてもいいんだと無機動になった日本のアンファンテリブルな若者たちに衝撃を受け、それがヌーヴェル・バーグ、アメリカン・ニュー・シネマへと繋がっていったわけです。

そして、革命寸前までいったヒッピー運動も、先に書いたように「ピース、ピース」と今のネトウヨがいうお花畑で、動脈硬化を起こし、煮詰まっていたところに登場したのが、パンクだったわけです。お前らうるさいよ、俺は過去のことなんか知らない、とにかく自分の問題しか分からないです。セックス・ピストルズのアナーキー・イン・ザ・UKの“M.P.L.A.(アンゴラ解放戦線)、U.D.A.(アルスター防衛同盟 北アイルランドの統一系右派)、I.R.A.(アイルランド共和軍)、知らねえよ、U.K.の話だと思っていたよ“ です。

 

 

パンクというのはそういう人たちで、前の世代のロック・スターたちからも嫌われて、「セックス・ピストルズと契約するだと、じゃ俺たち契約止める」とレコード会社を脅したりしたのです。で、クラッシュのメンバーとかはエア・ガンで鳩を撃ったりして、逮捕されたりして、体制からも嫌われていたわけです。今から考えたらエア・ガンで鳩を撃つとかあかん行為ですけど、スクワット(空き家に勝手に住む行為、違法なようで、当時は違法じゃなかったのです)している家に侵入してくる鳩をもう入ってこないように、脅してだけだと思います。空き家とかに鳩は巣を作って棲みついたりしてました。帰巣本能がありますからね。

でパンクの次の世代であるショーン・ライダーがどうしたかといいますと、そんな鳩たちに猫いらず入りの餌をばら撒いて、ベトナム戦争のナパーム弾のごとく皆殺しにしたのです。

この話を聴いた時、ヤバい奴らが出てきたなと思いました。日本で言うと、ヤンキーみたいな奴らがバンドをする時代が出てきたのです。

 

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