スペインのマスク義務化は「意味のない義務化」の問題点を浮き上がらせる—マスク・ファシズム[9]-(松沢呉一)
「世界のマスク率に見る義務化・感染者数・国民性—マスク・ファシズム[8]」の続きです。
マスクを義務化する国の傾向
ここまでを振り返ると、マスク着用義務は中国が始まりで、アフリカ諸国がこれに続いて、多くの国で罰則があります。さらに中東や南米で義務化されており、ヨーロッパでも義務化が進みました。
ざっくり言えば、全体主義の色が強い国が先行して義務化していて、そういう国ほど罰則つきになり、懲役刑もあり、現にそれが運用されて逮捕者も出ています。マスクをしていなかっただけではないにしても、射殺された人もいますし、リンチも発生しています。ムチャクチャ怖い。
たかがマスクですよ。マスクは「している/していない」の判定が楽です。だから、判定基準になりやすい。形だけだから、適切に使用しているかどうかなんてどうでもいい。予防効果があるのかどうかもどうでもいい。
メシを食う時に外して、その代わりの新しいのを持っていないこともあるでしょ。使ったマスクをもう一度するよりしない方が安全という判断は何も間違っていない。しかし、リンチされるかもしれないのです。
それでも、まとめて「義務化は意味がない」とは言えなくて、「意味のある義務化」もあります。「意味のある義務化」を見ると、なおのこと「意味のない義務化」の意味のなさがわかろうかと思います。義務化をしていなくても、意味のないマスクを信奉することの意味のなさもわかります。
具体的に見てみましょう。
※Máscara y capucha contra el fuego (1917-1918). スペインの記事に出ていたもので、どちらも防火用だそうです。第一次世界大戦時のものなので、戦闘に際して使用したものかもしれない。右側はよく見ると顔が透けていて、これをつけていても見えることがわかります。
スペインの義務化
ヨーロッパにおけるマスクの義務化は、チェコを筆頭にして、多くの場合、さほど厳密なものではない印象です。罰則がない国もありますし、マフラーやタオル、服で口を覆ってもいいという国もあります。唾を飛ばさないためならこれで十分です。正しいアバウトさです。
スペインも、それ自体には罰則がありません。どうせスペインなんてアバウトだろと思ったら、微に入り細に入る内容でした。偏見でした。現状、世界でもっとも適切な義務化のひとつがスペインだと言っていいのではなかろうか。
以下の記事にまとまっています(スペイン語です)。
2020年5月20日付「eldiario.es」
ここまで段階的に義務化が進められてきて、それまではただの推奨だったのが、5月の初頭にロックダウンが緩和されて、5月11日から、公共交通を利用する時と、複数の人が車に乗る時だけマスクを義務化し、5月21日から、屋内・屋外を問わず、 6歳以上が公共の場に出た際に、2メートルの社会的距離が確保できない場合に限って義務化しています。6歳以下は義務ではなく推奨です。
つまり、2メートル間隔を維持できる限りはマスク不要。集会をすることも可能。公共交通の場合は予め混むかどうかを正確に予想することが困難なので、引続きすべてマスク着用のようです。
段階を踏んだのは、行動自体が制限されている時はあまり必要がなかったことと、マスクの科学的評価が安定してきたってことのようです。つまりは、ロックダウンを緩めるためのマスク義務化であり、意味のあることだけを義務化しています。それを実現できたのはマスクの十分な供給です。
これだけ細かいと、国民のすべてが理解できるとは思えず、理解できていないだけで射殺されてはたまったものではないので、罰則つきにはできない。
ただし、警官が注意をして、マスクをさせるか、2メートル以上の距離を置ける場まで移動させることができて、これに反した時に「市民安全保障法」違反となって、罰金刑に処せられる。最大日本円で3万円くらいまでの罰金があり得ます。
配慮のあるスペイン・ルール
スペインの特徴は、義務化されるマスクに指定があることです。外科用マスクか防塵マスク。どちらも正しく使えばウイルスを遮断できます。安いマスクでは予防の意味がほとんどないことを踏まえています。
楽天でFFP2対応の防塵マスクが5枚入りで、1,960円(FFPは防塵マスクのEU基準で、数字が高い方が精度も高い)。1枚400円ですから、けっこうな値段です。もちろん、使い捨てです。
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