松沢呉一のビバノン・ライフ

京都橘高校吹奏楽部が台湾で旋風を巻き起こした理由—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[2]-(松沢呉一)

ヒジャブとスカートの類似点—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[1]」の続きです。

 

 

台湾の熱狂を再確認する

 

vivanon_sentence京都橘高校吹奏楽部」は長いので、以下、カッコつきの「橘高校」とします。

台湾のメディアは、10日経ってもなお手を変え品を変えて、「橘高校」について取り上げ続けています。あのパフォーマンスを観れば誰もが気になる「どのくらい練習しているのか」といった疑問に切り込んだり、「マーチの間の水分補給をどうしているのか」といったマニアックなマーチのサポート体制を紹介したり、音楽とは関係のない「台湾では何を食べたのか」「何を土産にしたのか」といったテーマを追ったり。橘高校側もそれに協力してネタを提供しています。

以下は一昨日台湾メディアが公開していたドキュメンタリー。

 

 

今回の話が決定したところから、訪台後、知らされていなかった蔡英文総統の登場で興奮する「橘高校」の面々、台北第一女子高校台湾暁女子高校との交流、そして帰国。これが前半で、後半は双十節での演奏。何度観ても「愛の讃歌」から「シング シング シング」の流れが素晴らしい。どこのマーチングバンドがやっても感動するかもしれないけれど、ここは「橘高校」ならではです。その意味は以降確認していきます。

 

 

台湾を熱狂させた背景

 

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台湾でこんな大旋風になったのは、間違いなくコロナ禍が関係しています。10月13日から台湾では入国者の隔離が必要がなくなって、日本同様、旅行者の解禁となっています。その直前だったため、自由な往来が再開されることをファンファーレとともに宣言しに来たような印象になったのだと思われます。

これは「橘高校」にとっても嬉しい知らせです。このドキュメンタリーでもちらっと部員が語っているように、「橘高校」だけでなく、マーチングバンドはコロナ禍で、コンクールやイベントが軒並み中止となって、活動のペースメーカーであり、やりがいでもある晴れ舞台を2年以上奪われました。マーチングバンドは人前で演奏してナンボですから、張り合いがなくなって、持続する動機を奪われた状態で2年も過ごすのはさぞかし辛かっただろうと想像します。

そもそもこの双十節に国外からマーチングバンドを呼ぶのは初めてであり、糞中国の圧力で台湾との国交を断絶する国が相次いでいる中、改めて日本は台湾との友好関係を維持することを確認し、台湾の親日感情に火がついたというところもあります。コロナウイルスで妨害されたけれど、また両国の関係が始まるのだと台湾の人たちは「橘高校」で確信しました。

私自身が、マーチング・バンドのマニアでもないのに、「橘高校」の魔力に取り憑かれて、ずーっと動画を観てしまってます。なんでこうも繰り返し観たくなるのかな。アニメ「聲の形なみ。あんなには泣かないけど、中毒性があります。

その魔力は自分なりには説明できるのですが、前回だけを読むと、「橘高校はコスチュームがかわいい」「高校生なのに、スカートが短いのがエロい」といった程度のことを私が言おうとしているように思えるかもしれない。大きな誤解。

きっといるとは思うのですが、私と同じようなことを言っている人、書いている人を今のところ見つけてません。当然、「橘高校」の受け取り方は人によって違っていて、私の受け取り方はマイナーなものではありましょうけど、言語化できていないだけで、同じようなものを受け取っている人はそれなりにいるはずです。以下、それを説明していこうと思います。

お断りしておきますが、あくまで私の受け取り方であり、実際に「橘高校」が意図してやっているかどうかは知らんです。

※今回の訪台に合わせ、橘高校吹奏楽部を23年間(1995年〜2018年)指導してきた前顧問である田中宏幸教諭の著書『オレンジの悪魔は教えずに育てる—やる気と可能性を120%引き出す奇跡の指導法』の中国語版が台湾で発売されています。このことでもわかるように、訪台で急に火がついたのでなく、前評判が高かったようです。今回の双十節の目玉ですから、官民挙げて盛り立てていたのだろうと思います。

 

 

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