松沢呉一のビバノン・ライフ

インドネシアの婚姻外セックス禁止法についての補足—国内外の批判の高まり-(松沢呉一)

インドネシアで婚姻外セックスが禁止され、ロシアで同性愛プロパガンダ禁止法の改正案が成立—道徳の法制化が進む[上]」の補足と追記です。

 

 

インドネシアの婚姻外セックス禁止法についての補足

 

vivanon_sentence昨日公開されたインドネシアの記事を読んでいて気づいたことがあったので、補足を入れておきます。

婚姻外セックスを禁止したことによって、外国資本が撤退し、インドネシアに進出する企業が減り、観光客が来なくなることが危惧されていて、米国務省のネッド・プライス報道官もこの法律に懸念を表明しています。

これに対して、2022年12月8日付「tempo」は、インドネシア大統領府のスタッフによる説明を掲載しています。2019年に法案が流れたことの反省から、今回は手が加えられたようです。

そのスタッフによると、この法律は親告罪であり、親告できるのは既婚者の場合は配偶者のみ。配偶者が浮気をしたら親告して、相手とともに配偶者を処罰することが可能。未婚・離婚者の場合は子どもと親のみが親告できます。

どちらの場合も、第三者がそのことに気づいたところで警察は動けない。だから、「心配なく投資して欲しい」と言ってます。

それでも、インドネシアですから、LGBTについては警察あるいはその他の人たちが親族に知らせて親告させる可能性がありそうです。異性愛者でも、女に対しては厳しい人が多いでしょうから、「あんたの妻が浮気している」「あんたの娘が男とホテルに泊まった」などとチクリそうです。

外国人になると、親族にコンタクトを取ることが難しくはなりますが、家族とともにインドネシアに赴任している人は同じことが起き得ます。家族が拒否すればいいだけですが、良識ある企業は「そんな国には進出しない」と決断して欲しいものです。つっても金が儲かれば進出する企業はあるでしょうから、社員は「そんな国には赴任しない」と拒否して欲しいものです。

✳︎2022年12月8日付「tempo」 インドネシアのメディア

 

 

年間100万人の国民がバリ島を訪れるオーストラリアの政府も危惧

 

vivanon_sentenceもう一つ追記。

街頭での目立ったプロテストが起きていないと書きましたが、昨日になって、ロイターやインドのWIONが、座り込みが起きていることを伝えています(改めて調べたら、とくにインドネシア・メディアはもっと前から報じてました)。

 

 

まず確認。ジャコ・ウィドド大統領はまだ署名していないですし、署名しても、3年間は施行されないとのことです(理由を読んでもよくわかリませんでした)。

インドネシアでは火炎瓶が飛び交い、警察署を焼き討ちするようなプロテストが盛んですが、今回はおとなしい。これから反対運動が激しくなるのかもしれないですが、今のところは座り込みのみ。

反対の動きをバックアップし、大統領が署名することを牽制する意図がありそうですが、法案が議会を通過するや否や、オーストラリア政府がこれを危惧して、「基準を出せ」とインドネシア政府に要求。毎年、100万人ものオーストラリア人がバリ島を訪れているオーストラリアとしては国民に注意を呼びかけるしかなくなります。

オーストラリア政府は、当然、親告罪であることは理解しているでしょうが、「セックスしたか否かをどう確定させるのか」といった運用上の基準が曖昧なことを指摘しているのだろうと思います。映像なり音声なりの証拠がある場合やはっきり目で見た目撃証言がある場合のみ適用するのであれば、適用される例は相当に少なくなりますけど、インドネシアにもイラン同様の道徳警察がいますので、拷問によって自白を強いる可能性が十分にあります。よく中国がやるように、ふだんは機能しない法律にしておいて、政府間のトラブルがあった時に、敵対する国の国民の行動を監視して、家族を連行して脅して親告させるようなことがないとは言えない。

 

 

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