松沢呉一のビバノン・ライフ

道徳警察とヒジャブの現在—イランのプロテストの成果と鎮静[下]-(松沢呉一)

午前3時過ぎに見かけたバングラデシュ人の母娘—イランのプロテストの成果と鎮静[上]」の続きです。

 

 

道徳警察廃止は今のところ実現されているよう

 

vivanon_sentenceマッサ・アミニさんの死亡を契機としたイランのプロテストについて、しばらくの間、丁寧にフォローしてましたが、今年になってから一度も取り上げてませんでした。Colaboのせいですが、同時にプロテストが沈静化したためです。

ここまでの数字を出しておきますが、本年2月時点までに殺されたプロテスターは527名。うち児童が71名。

これに対して、小規模なプロテストが散発的に起きてはいますが、昨年までの大規模なプロテストは起きておらず、ほぼ沈静化したと言っていいでしょう。

ここ数ヶ月のイラン情勢は、以下にまとめられています。年齢制限つきなので、YouTubeに飛んでください。

 

 

 

道徳警察を廃止すると発表したところまでは「ビバノン」で取り上げてましたが、ポーズではなく、本当に廃止したようです(あるいは外回りをやめただけか)。

また、イラン革命を受けて、1993年に制定されたヒジャブ法もゆるめられたようです。正しくないヒジャブの着用を取り締まってきたヒジャブ法と道徳警察が改正されたことで、ヒジャブをしない女たちが堂々公道を歩けるようになっていて。このことがプロテストの成果とされつつ、これがプロテストを沈静化させた模様。そのうち規制が復活しかねないのが怖いですが、そうなったらまたプロテストが始まりましょう。

この報道では死亡者として女児を取り上げています。男より女、大人より子どもの死の方が痛ましいので、もっとも痛ましい例を取り上げるのは当然ですが、現実には圧倒的に男が死んでいることも説明すべきです。大人であれ、子どもであれ、8対1から、9対1くらいの男女比です。

10歳に満たないような子どもであれば、男児であれ女児であれ、登下校の際に巻き込まれて、銃の乱射で運悪く亡くなったのだろうと思われます。しかし。高校生くらいになれば、男子であれ女子であれ、プロテストに参加して殺されているのが増えます。現実に女子でもそうだったことが報じられていますが、女子だとそれでも子どもと同じく無垢な存在が暴虐の末に殺された印象になります。男だと高校生でも火炎瓶くらい投げていそうですしね。

これが「女子供バイアス」です。ちなみに他国の報道では、男児・女児ともに出していたりします。妥当。それでもやはり女子に重きがあります。男は自身の責任で行動できますが、女はできないので、「何もしていないのに、ただただ殺された」という印象になる。子どもに近い存在。

とくに日本社会は「女子供バイアス」が満ちてますから、大人より子ども、男より女を取り上げた方が視聴率を上げられ、アクセスを増やせます。こういう選択をするのはやむを得ない。私もそうしますが、全体を反映しているわけではないことを書き添えるようにしています。

メディアの中には、こういったメカニズムで大人より子ども、男より女の死者を取り上げていることに無自覚な人もいるでしょう。その人たちは、そのバイアスが頭を支配しているため、全体像を見ようともしない。結果、殺されているのは若い女子ばかりだと誤解しているのではなかろうかと疑います。

 

 

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