松沢呉一のビバノン・ライフ

国外に出てもロシア語を使い続けるロシア人たち—ロシアの少数民族と言語-(松沢呉一)

 

国外に出ても楽ではない

 

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日本のテレビ局の独自取材ものとしてはいい内容でした。

 

 

母娘のドラマが描かれていることもさることながら、「国外に出ても楽ではない」ということがよくわかります。

ずっと書いてきたように、MVを出せば100万再生回数を超えるようなトップクラスのミュージシャンだったら、コンサートにも人が集まりますから、食っていくことができますが、このベーラ・オレイニコワ(Вера Олейникова)さんのようなミュージシャンでは音楽で食っていくのは難しい。

ジョージアにおける脱出ロシア人たちの微妙な地位もわかります。ジョージアでは、政府は歓迎していても、国民は必ずしも歓迎していません。それでも、家主、小売店、サービス業は記録的に売上が伸びて喜んでいる人たちが多いでしょうが、金のないベーラ・オレイニコワさんのような存在はただの邪魔者。

そのジョージア人たちの姿勢に怒れないことは「ビバノン」に書いてきた通り。その原因は個々のロシア人自身にもあるためです。

「ロシア国籍ということから、厳しい言葉をかけられることもある」とナレーションが説明していて、これだと「図々しいロシア人や戦争自体は支持しているロシア人がいるのは事実として、彼女は関係がなく、国籍だけで差別するな」と憤る人がいるかもしれないですが、この動画を観ていて、「昨年6月からジョージアにいて、撮影は3月だったとして、9ヶ月。それでも彼女はおそらくジョージア語は話せないな」と察知できました。あとからそういう説明も出てきます。

母親がチェチェン人なので、彼女もチェチェン語を話せるかもしれないですが、ジョージアに限らず、旧ソ連領だった地域で日常生活を送るにはロシア語があれば事足りるが故にロシア人がジョージア語を学ぶ必然性が薄い。脱出してきたロシア人はいくらでもいますから、そのコミュニティ内ではロシア語があればいい。

とくに彼女は母親とドイツに行く予定でしたから、ジョージア語は不要。ドイツもロシア系が多いので、ドイツ語も不要。彼女のように仮の場所としてジョージアに出た人たちは多く、事実、そこからヨーロッパの別の国や南北アメリカに移動した人たちもいますけど、他の場所に行くこともできずにジョージアに留まる人もいます。

しかし、ロシア語しか話さないロシア人は仕事も得られない。だったら、日常会話くらいできるようにすればいいのにその努力はしない。アフリカ大陸の中国人が現地の言葉を覚えようとしないのと同じ。ホームレスとして自殺したフランス人と同じ。それぞれ自身の存在、自身の言語にプライドをもっているためだと思いますし、時にそれはその地に対する蔑視が混じるので、反発されるのは当然です。

反プーチン派、反戦派でさえも。

 

 

少数民族と言語

 

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チェチェン人の中には彼女の母親のようにプーチンに対する反抗心を今も心の中にもっている人たちがいます。

ドイツのメディアが先ごろロシアの少数民族と戦争の関係についての記事を出してました。散発的には出るのですが、まとまった記事は珍しいので、大いに参考になりました。

 

 

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