松沢呉一のビバノン・ライフ

プーチンとヒトラーとムッソリーニの身長—ユーロヴィジョンの見どころ・その2-(松沢呉一)

ユーロヴィジョン2023決勝に進出したクロアチア代表Let 3の「Mama ŠČ!」-今年の注目エントリーをいくつか」の続きです。

 

 

ヒトラーの身長

 

vivanon_sentence

ユーロヴィジョン2023決勝に進出したクロアチア代表Let 3の「Mama ŠČ!」-今年の注目エントリーをいくつか」に、プーチンの身長は公称170センチですが、実際にはもっと低い」という話を書きました。その時に、ヒトラーの身長についても書こうと思ったのですが、長くなるので割愛しました。

ついさっき、ひさびさにナチス関連の本であるエリック・ラーセン著『第三帝国の愛人—ヒトラーと対峙したアメリカ大使一家』を読み始めたのですが、序文に「大きなメルセデスのオープンカーに乗った小柄なヒトラー」という文章が出てきて、2ページ目にして読む気が失せました。

たしかに大きな車に不釣合いな小男の姿は「虚勢を張る孤独な独裁者」の絵としては納得しやすく、多くを語りそうですが、現実ではない。

この本以外でも「ヒトラーは小男だった」という表現を見かけるのですが、軍隊に入った時の身体検査の記録が残っていて、175センチです。当時のドイツ人の平均より高い。歳をとって以降、とくにやつれて以降は想像しにくいですが、体格もよくて、もっとも肉付きがよかった頃は体重が100キロ以上ありました。

これが現実であって、「小柄なヒトラー」と書いている本は「調べ方が浅い。信用できねえ」との評価にならざるを得ません。これは写真を見てもわかることであって、それほど調べるのが困難なはずはない。

「小柄なヒトラー」のイメージが広がったのは、「コンプレックスが強い貧相で神経質な人物」という評価に見合った体格が求められた結果であり、戦中、連合国のプロパガンダから始まっていたかもしれないですが、もっぱら戦後作られた伝説です。ここからヒールの高い靴を履いていたといった尾ひれもついていきます。

背が低かったのはゲッベルスであり(165センチ)、これはイメージ通りとして、イメージよりも低いのはムッソリーニです(169センチ)。プーチン同様、鍛えた体を誇示していたため、もっと高い印象がありますが、写真を見ると、たしかにヒトラーより低い。

といったように、ヒトラーの身長について書くと長くなる上に、「プーチンはヒトラー同様のチビ」というオチにはならんのです。

「ヒトラーやプーチンは背が低いことのコンプレックスから独裁者になった」という物語は当てにならないし、身長に対するひどい偏見ではなかろうか。身長が人格形成になにしからの影響を与える可能性は否定しないですけど。

Wikipediaよりヒトラーとムッソリーニ(ミュンヘン、1938年9月29日) ムッソリーニは踵が地面に着く前だと思われて、実際にはもっと差がありそう。

 

 

ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト第二準決勝の結果

 

vivanon_sentence以上は前回の補足でした。

以下が本編です。行きがかり上、昨日あったユーロヴィジョンの第二準決勝についても触れておきます。

私がもっとも気に入ったのはアルバニア代表Albina & Familja KelmendiDuje」。

 

 

ターボ・フォークっぽいですけど、こういう構成(曲もメンバーも)は珍しくて斬新。ムチャクチャいいな。

 

 

next_vivanon

(残り 1463文字/全文: 2907文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ