性売買特別法によって韓国で性犯罪が増加した件—仁藤夢乃の発言は信用できない[6]-(松沢呉一)

2023年07月31日 9時13分　
カテゴリ：セックスワークを考える • トルコ風呂 • 仁藤夢乃は信用できない • 日本 • 白線 • 買春処罰 • 韓国(대한민국)

「性売買特別法による地下化、分散、偽装、個人化—仁藤夢乃の発言は信用できない[5]」の続きです。韓国の性売買特別法については、「韓国・性売買特別法についての事実を確認する—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編]」を参照してください。

性売買特別法による性犯罪増加を分析した論文

韓国の性売買特別法を施行して以降、性犯罪が増えたという話が時々出ていて、詳細が知りたくて検索してみたら、これについての論文が発表されてました。

2019年7月、韓国刑事政策研究院(内閣府に属する研究機関)が発刊している学術誌「刑事政策研究」に、キム・サンクォン漢拏大経営学科教授が「性暴力原因に対する社会・経済的分析」というタイトルの論文を発表。

性暴力発生件数は性売買特別法が施行された2004年からたしかに増加しています。1998年に5,976件だった性暴力発生件数は、2004年には6,937件に。6年前との比較で、16.1％の増加です。

それまでも性犯罪は増加傾向にあったため、これだけでは増加傾向の延長かもしれないですが、2010年の性暴力発生件数は11,908件に達し、2004年以降6年間で71.7％増加しており、性売買特別法が施行される前と比較して、施行後の性暴力犯罪増加速度は約4倍ほど速い。

他の要因もあるかもしれないですが、2004年を境にしているので、性売買特別法の影響だと思っていい。

数字を見ればわかることなので、ここまでは確定で、さらに別の国のデータを見ても確定していて、ざっと以下のようにまとめることができます。

我々は、ヨーロッパ諸国における段階的な法改正を用いて、商業セックスの自由化と禁止が強姦率に及ぼす因果関係を確定させた。売春を自由化すると強姦率が大幅に減少し、禁止すると強姦率が大幅に増加する。

これは2022年に発表されたシカゴ大の研究者たちによる論文「Do Prostitution Laws Affect Rape Rates? Evidence from Europe」のアブストラクトからです。

あまり知られていないかと思いますが、日本でも売防法施行以降、強姦事件が急増した事実があって、輪姦が非親告罪になった契機にもなっています。

日本では、摘発逃れの白線(パイセン)がすぐに出てきて、新宿で言えば赤線のあった二丁目には屋台売春やヌードスタジオが登場し、それまで家族やカップルが中心だった歌舞伎町が新たな歓楽街になり、木賃宿が集中していた旭町(現・四丁目)も売春エリアになります。やがてトルコ風呂が性的サービスをするようになっていくわけですが、この辺を警察が完全に潰そうとしなかったのは、捜査に手間がかかるだけじゃなく、犯罪抑止の観点もあったかもしれない。

2019年8月4日付「The JoongAng」論文は一般公開されていないため、おもにこの記事を参照しました。

人は最小のコストで欲望を満たそうとする

両罰であれ、買春者のみを罰するスウェーデン方式であれ、性犯罪を増加させることは間違いないとして、なお客を捕まえることに執着する人々は、「買春を体験したから、性犯罪に走るのだ」という飛躍的な論を持ち出しています。法規制の前に買春できた体験によって、その後の性犯罪が誘発されたという主張で、この立場をとる研究者もいます。

全文公開されている論文もあるので、ざっと目を通しましたが、仮説の上に仮説を重ねる内容で、かなり無理のある論だと思いました。たとえば、韓国のデータでは、性犯罪者の買春体験率は、韓国人男性の平均よりずっと高いというデータが出ていて、これを根拠のひとつとしているのですが、他に合理的説明ができるので、論拠にならないでしょう。なんとしても性欲を満たしたい人がいたら、買春率は高くなる。それができなくなったら持て余した欲望を満たすために性犯罪でもやると考える人たちがいるってだけでは?

この論は買春者処罰を導入した国の性犯罪が、50年でどう推移したかを見ると、何かわかるかもしれないですが、地下化、偽装、個人化、新業態によって、韓国での性風俗マーケットは小さくなっていないという説もあるため(これもカウントするのは困難ですが)、50年経っても何もわからない可能性が高く、とりあえず現在は無視していい論だと私は判断しています。

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