松沢呉一のビバノン・ライフ

性売買特別法に反対した人々が危惧した通りのことが起きている—仁藤夢乃の発言は信用できない[7]-(松沢呉一)

性売買特別法によって韓国の性犯罪が増加した件—仁藤夢乃の発言は信用できない[6]」の続きです。韓国の性売買特別法については、「韓国・性売買特別法についての事実を確認する—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編]」を参照してください。

 

 

街娼の検挙に比して、客の検挙は10倍、あるいはそれ以上の手間がかかる

 

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前回書いたように、買春者の逮捕はコストがかかりすぎます。

ソウルに行った時に聞いたら、かつてはいた街娼はほとんど見なくなったとのことでしたが、もし日本で買春者処罰、あるいは両罰を導入したら、街娼の検挙はどうなるかをシミュレーションしてみましょう。

今現在、街娼から客に声をかけることはまずありませんけど、客のふりをした捜査員に声をかけてきたら、「いくら?」「本番できるの?」と聞いて話がまとまって、ホテルの前で検挙です。もっとも簡単な売防法の適用事例。

街娼はそんなことはわかってますから、本当は「おにいさん、私とセックスしない?」と声をかけたくてもできないため、捜査員は自分から声をかけるおとり捜査をやるわけです。韓国でもおとり捜査は条件によって適法とされる場合と違法とされる場合があって、この辺の基準は日本と同じようです。

今現在の日本のように、街娼自身を勧誘で逮捕するためには、3日間、続けて同じ場所に立ち、連日、複数の客とホテルに行くところを確認して、捜査員が声をかけて話がまとまったら、ホテルに向かい、その前で逮捕という段取りになります。しかし、これでは客は捕まえられない。

客を捕まえようとしても、客は連日同じところに来るわけではありません。次に来るのは1ヶ月後の人もいるでしょうし、1年後の人もいます。二度と来ない人もいますから、多数の人をマークして、その中から、繰り返しくる人を探し出すしかない。

街娼だったら、下調べに3日あればいいのに対して、客は1ヶ月かかる。しかも、マークするのは数十人という単位になりますから、街娼なら捜査員が2人いればいいのに対して、客を追うには10人以上必要になります。そうしたところで、街娼の一斉検挙では5人捕まえられるのに、客はせいぜい1人しか捕まえられず、たいていの場合は1人も捕まえられないということになりそうです。

こんな捜査に捜査員10人を費やす意味があるか? そんな余裕があるなら、殺人事件や放火事件の捜査に回した方がずっといい。

おとり捜査をしなくても、繰り返しスポットにやってきて、繰り返し街娼とホテルに入るところを確認したら、出てきたところで逮捕してもよさそうですが、両罰規定の場合、街娼と客は互いを守るために結束します。買春者だけ処罰する法でも、街娼は客を守るしかない(これはスウェーデン方式を採用した国々で報告されています)。街娼と客、男と女を対立構造でしか見られない仁藤夢乃には想像もできない現実です。

「友だちだから、よく静かなホテルでお茶を飲んでいるだけだ」と両者が口裏を合せたら、警察は立件できないのではなかろうか。長年、同じ街娼に会い続けているおじいちゃんにはそういう人が実際にいますしね。

店舗の捜査でも同じです。

※新大久保・国際友好会館の並びにあるラブホ。人通りが多いので、この周辺には街娼はいませんが、もう少し駅よりに韓国人街娼が今もいます。

 

 

必然的な結果が出ているだけなのに、法の失敗を認めようとしない人々

 

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仁藤夢乃は売防法を曲解して拡散するのを直ちにやめろ!!—仁藤夢乃の発言は信用できない[2]」で取り上げたツイートで、仁藤夢乃は買春者にこそおとり捜査し、捕まえるべき」なんて主張してました。ふう。この人は熟慮する能力が欠落しているのか、わかっていて適当なことを言っているのか、どっちかわからない。たぶん適法なおとり捜査をするためには十全な下調べが必要であることをわかっていないのだと思いますが、この人の場合、客を逮捕するためには「違法なおとり捜査をやれ」と思っている可能性もありそうです。

韓国で性売買特別法を推進した女性団体も仁藤夢乃と同類のようです。

捜査の手間がかかることを考えても、韓国での報道を見ても、客が捕まるよりも、セックスワーカーが多く捕まっているだろうと思え、数字を探したのですが、見つからず。しかし、以下のニュースで確認できます。

 

 

 

 

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