松沢呉一のビバノン・ライフ

森カリオペの選択としぐれういの選択—ジャニーズ事務所のマネージメントとVTuberのマネージメント[2]-(松沢呉一)

「ホロライブ大運動会2023」で見えたこと—ジャニーズ事務所のマネージメントとVTuberのマネージメント[1]」の続きです。

 

 

 

芸能界は変わるか?

 

vivanon_sentenceジャニーズ事務所の新会社がエージェント契約に移行するのは、過去を断ち切るためには適切だと思われますが、これがうまくいくかどうか、芸能界全体に波及するかどうかは微妙。

米国でエージェント方式が早くから根づいていたことは、米国が契約社会であることと無関係ではないでしょう。外タレの招聘では、分厚い契約書が交わされます。コンサートで使用する機材や楽器はもちろん、宿泊や移動、食事まで決め込まれていて、ミュージシャンによっては、常備薬やステージのドリンクまで指定されています。

こういう契約を各業務単位で交わしているはずで、有能なマネージャーは引っ張りだこ(マネージャーの引き抜きもあります)。

対して、日本の芸能界では日本なりのマネージメントのノウハウが発展してますが、米国のそれとは大きく違いますから、すぐに対応はできない。

タレント自身も、マネージャーを探して、給料を支払って、エージェント契約に踏み切ることは容易ではなく、それができるのは、売上が十分にあって、どうしても必要とされる売れっ子だけではなかろうか。

マネージャーをつける余裕のないタレントは自身で売り込み、契約するわけですが、放送局や広告代理店が人気や知名度のないタレントを相手にしないでしょう。どこの業界でも今までの信頼や習慣に乗って仕事をやっている中、イレギュラーのことはやりたがらないし、日本社会は大きな法人を優先します。

となると、ジャニーズ事務所が消えた穴を別の事務所が埋めるだけ。おそらく大手の芸能事務所はすでにその穴を奪うべく奔走しているはずです。

既存メディアに依存せず、ミュージシャンはインターネットで曲を売ることができるようになって、長い目で見れば、芸能界的なシステムは壊れていくでしょうが、これまでのシステムに乗って利益を得てきた人たちがそう簡単に変わるわけがありません。

✳︎2021年3月14日付「中日スポーツ」 吉本興業のエージェント契約は一部の芸人にしか広がっていない事情がよくわかる記事。そりゃ、大半の芸人は、自分でマネージャーを雇って、自分で決定していくような度量はないし、それをやったところで、売れる可能性は低い。

 

 

レコード会社と専属契約することのメリット。デメリット

 

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数年前まで吉本興業とタレントの間には契約書がなかったらしいですが、それで回っていたのですから改善する機会がなかったのでしょう。

前々から言っているように、ガチガチの契約書を交わすと、自分も縛られることになるので自由度が落ちますし、トラブった時にこちらが責任を問われることにもなりますから、契約を交わさずにうまく回る限りはアバウトにしておいた方がいいと私は思っています。

いい点、悪い点、どちらもある中で、どちらがいいかはケースバイケースです。

これについては森カリオペがレコード会社との契約を素材に語ってくれています。

 

 

これを観るまで知らなかったのですが、森カリオペは昨年EMIと契約しているのですね。

ここで言う「レーベル」はレコード会社のことであり、この契約は1枚こっきりの「ワンショット」と言われるものではなく、専属契約です。たぶん今でも2年でアルバム3枚の契約が多いのではないでしょうか。その間は、レコード会社を通さずに、音源を制作することはできません。

 

 

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