松沢呉一のビバノン・ライフ

日韓の銭湯の間に何がある?—韓国でたびたび起きる「後進国型事故」[後編]-(松沢呉一)

銭湯での感電死に注意—韓国でたびたび起きる「後進国型事故」[前編]」の続きです。

 

 

感電事故は今年だけで3件目

 

vivanon_sentence日本では浴槽にさまざまな機能がついているのに、銭湯での感電死は聞いたことがない。古い時代のことまではわからないですが、ネットで検索しても、感電事故は個人宅だけです。

韓国の銭湯には電気風呂はまずなく、事故のあった浴槽には気泡発生装置があったことから、それが原因だと見られています。続報でも、それ以上のことはわかっていない模様です。

しかし、日本の銭湯のほとんどに気泡発生装置がついているのですし、空気を送り込むパイプはプラスチックですから電気を通さず、通常はこんなことは起き得ない。

6月に電気系統の安全検査があって、問題はなかったとされています。浴槽回りまで調べたのではなく、漏電がないかどうかを調べたくらいじゃないかと思われますが、普通はそれで十分。

築39年のため、老朽化していたのではないかとも言われていますが、建物ができた時には気泡発生装置はなく、気泡発生装置が設置から20年です。老朽化してパイプに穴が開いたところで感電はしません。なんで韓国のメディアはここに気づかないのかな。

まだしもあり得るのは、バックヤードにあるタンク付近の漏電です。ここからのパイプも通常プラスチックを使っていますが、湯は浴槽につながっていますので、たとえばタンクの縁に携帯電話に充電器を置いていたのが、何かの拍子にタンク内に落下するようなことがあれば浴槽内での感電があり得るのかもしれない。しかし、それも防止策が何かあるんだろうと思います。安全装置がついているとか。

✳︎2023年10月16日付「wow Korea」 清掃時の感電で父子が死亡。使わない銭湯もあるでしょうが、何かしら、清掃に電気器具を使用する銭湯は多いでしょう。ただ、浴槽は真っ先に湯を抜くし、タイルの水滴は目地に流れ、タイル自体は乾きやすいので、これもまず起きない。下の動画のサムネイルは現場の写真と思われ、湯なり水なりが張られたままです。さては毎日抜いてなかったな。日本でも数日に一回しか湯を抜かない銭湯があって、条例違反だと思いますが、衛生上だけでなく、安全上も危険です。

 

 

原因もわからないのに重罰化を求める韓国テレビこそ後進国型

 

vivanon_sentenceいずれにしても、日本では起きておらず、韓国ではたびたび起きているのだから、韓国に何か原因があることは間違いない。にもかかわらず、原因もわからないまま、事故を起こした銭湯に対する罰則が軽すぎるとの主張をしています。

 

 

アナウンサーは「後進国型事故」と言っています。「韓国は先進国なのに、どうしてこんな野蛮な事故がなくならないのか」というニュアンスかと思います。

もちろん法に不備があれば整備すればいいですが、原因もわからないまま、罰則が軽いとの主張もたいがい野蛮だと思います。原因を解明せずに、法律を作れば世の中が良くなる、重罰化すれば解決すると考えるのは中学生レベル。あるいは塩村あやかレベル。

日本の公衆浴場法も最大「六月以下の懲役」で、懲役はもちろん、罰金刑になるケースは稀で、せいぜい営業停止です。罰則としても運用としても比較的軽い法律ですが、あくまでこれは、設備の不備や日常業務の違反に対する罰則であり、それで懲役刑があるのですから、けっこう厳しい。また、それによって事故死が起きたら、業務上過失致死罪に問われます。

韓国も同じはずで、過去の事故が罰金で済んだのは過失はなかったってことでしょう。法律に不備があるとしたら、安全対策についての規定です。日本の公衆浴場法はシンプルですが、各自治体の条例が相当に細かい。大半の銭湯はこれを守っています。法に不備があるのか、運用に不備があるのか。

それを見極めるためには、日本と韓国の公衆浴場に関する法や条例を調べ、日本の銭湯を視察して、両国の差を探すことです。日本の安全対策を真似て、「世界初! 韓国独自の安全対策」といつもならやるのに、なぜこれについては死者を出し続けているんだろ。

 

 

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