松沢呉一のビバノン・ライフ

中国人にとっての桜・梅・桃—中国人のマナーを鑑賞する[補足編]-(松沢呉一)

中国人のマナーを鑑賞する」シリーズの補足です。

 

 

桜を理解しない中国人観光客

 

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観光客による桜に対する狼藉で怒りを掻き立てられ、「外国人と一緒に暮らすのは無理」と即断する人たちもいるでしょう。気持ちはわかりますが、外国人のどいつもこいつも桜の木を折ったり、切ったりするわけでなく、問題を起こすのが多い中国人でも、大多数はそんなことはしません。

中国政府の対策も少しは効果を上げていましょうし、インターネットでもマナー違反は叩かれてます。とくに国の外に出る機会が多い都市部に住む若い世代の意識は着実に変わっていましょう。しかし、それがなお徹底していない状態かと思います。

JNTO推計値で、本年1月と2月の訪日外国人5,476,100人のうち、トップは韓国人で1,675,500人、2位は台湾人で994,500人、3位は中国で875,300人。ただし、このデータでは香港は別になっていて、香港は4位で392,200人。これを加えると、中国は2位ですが、韓国には及びません。

しかし、マナー違反で話題になるのは韓国より中国です。北京語と広東語と台湾語をすぐさま聞き分けられる人なら、言葉で区別できますが、台湾人を中国人だと誤認する人もいるかもしれない。しかし、台湾旅行者はリピート率が高いのが特徴。これは私も台湾で皆の話を聞いて実感しました。5回6回と来ているのがザラであり、ツアーで来るのは稀で、日本語を話せるのも多いので、個人で、あるいは友だち、恋人、家族で来る。

台湾人のYouTuberの中で、わりとよく見ているのはズズさんですが、まさにそういうタイプ。

 

 

映像ではよくわからないですが、「観光客」が写真を撮るため、桜の枝を引っ張っていたようです。切ったり折ったり登ったり揺すったりに比べれば、引っ張るくらいはいいかとも思いますが、褒められることではありません。

「桜が痛そう」と感じるのは、彼女個人の感性なのか、台湾に広くある常識なのか、どっちなんでしょうね。たぶん台湾からの観光客はこういう人が多いと思います。

 

 

中国における梅の価値

 

vivanon_sentence台湾にも桜は多数あって、日本からのソメイヨシノもあれば台湾固有種も複数あります。それを愛でる文化もあります。

中国にも桜を愛でる文化はあって、今は変化しているところもあろうかと思いますが、中国と台湾の桜の位置づけは日本とは違います。これについては中華料理屋の店主にも確認済みです。

中国での桜は春の花のうちのひとつに過ぎず、梅や桃の方が付随する価値が高い。日本でも、梅や桃に関わる付加価値がありますが、これはおおむね中国由来です。

中国の絵画で好んで描かれるのは梅です。日本でも梅に鶯の組み合わせは鉄板ですが、これはもともと漢詩から来たものだそうで、奈良時代から日本にも定着。この頃、中国から花見文化も伝来します。対象は梅です。日本でも、梅にまつわる祭りは各地にありますが、その名残と言っていいでしょう。

平安時代に入ると桜に重きがおかれるようになっていったのに対して、梅の花が中国でありがたがられ続けているのは、おそらく春節とも関係しています。地域にもよりましょうが、梅の花は1月下旬から2月上旬に咲きます。新年の到来とかぶります。日本では、入学、入社のシーズンと桜の開花がかぶります。

梅の実は漢方薬としても使用され、肝臓にいいとされてますから、酒の飲み過ぎを癒します。実利も伴ってます。

もうひとつ、中国で好まれるのは色です。梅の花も様々ありますが、日本人にとっても、梅の花をイメージする時は桜より濃い赤の印象が強い。共産党支配の前から、中国では紅が好まれてきました。そのこともあって、赤が強い梅の方が高い位置づけを誇ったのだろうと推測します。

 ✳︎中国語版Wikipediaより陳家燕作「竹石梅鵲図」上海博物館所蔵 この鳥はカササギ

 

 

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