『幽霊はわがままな夢を見る』 地方映画といえば、東京で夢破れたアラサー女子が故郷に帰る話だ、と喝破したグ・スーヨン。それがなんでこうなるの?
→公式サイトより
『幽霊はわがままな夢を見る』
監督 グ・スーヨン
脚本 グ・スーヨン、具光然
撮影監督 平尾徹
音楽 lyon+Taichiro
出演 深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花、西尾聖玄、山崎静代、佐野史郎、大和龍之介
グ・スーヨンが地方映画を撮った! 本ブログでは『巫女っちゃけん』をかつてレビューしたことがあるグ・スーヨンだが、個人的には初監督作『偶然に最悪な少年』を見て、「こんな必然的に最悪な映画ある?」と衝撃を受けたのが皆殺し前史の重要な一ページであったりもする。
グ・スーヨンが出身地下関を舞台に下関出身の女優を主演で撮った下関ムービーは、グ・スーヨンと具光然(ゆで卵映画『ゼラチンシルバーLOVE』、『巫女っちゃけん』などの脚本)という兄弟共同脚本作品である。こういうずっと見守ってきた映画作家がこっちにやってくるのは予感があたって嬉しいというかなんというか……きっかけは加藤雅也がグ・スーヨンに下関出身の女優、深町友里恵を紹介したことだという。で、地方映画といえば、東京で夢破れたアラサー女子が故郷に帰る話だ、と喝破したグ・スーヨンがこの映画を作ったわけだが、いやそれがなんでこうなるの?
深夜、人のいない葬儀場に飛び込んできたジーンズのホットパンツから素足を突き出した女は、棺桶を殴りつけ、揺すぶってひっくり返しそうになる。激情する彼女をかろうじて抑え込む富澤昌次(加藤雅也)だが、女に殴られて顔を腫らしている。彼女は女優になると東京へ出ていった娘のユリ(深町友里恵)だった。
「ばあちゃんが倒れたときに呼んでくれたら死に目に会えたのに」
「だってまさか死ぬとは思わんから」
このやたら乱暴なばあちゃん子、どうやら女優としていまひとつ芽が出ないまま、「あんたおっぱいでかいからチケット売れるだろ」などといまどきそんなセクハラあるかと思えるようなクソ劇団のオーディションを受けるが「最低でも百枚は売れないと役はつけられないよ。パトロンに買ってもらえよ」とこれまたありえないハラスメントを受けて落とされ、見切りをつけて故郷に戻ってきたのだという。仕事もないと聞いた父親、
「じゃあ、父さんがやってるFM局の手伝いでもするか?」
「いまさらラジオなんか。わたし女優ですから!」
「できないのごまかしてるだけだろ! 女優もろくにつとまらない人間が!」
痛いところをつかれたユリ、渋々ラジオ局で働くことになるが……
この映画がすごいのは、ユリがひたすら自分勝手でわがままで(わがままなのは幽霊ではなく主人公の方である)やる気もなければ努力もしない、ついでに言えば才能もない。何ひとつ好感を持てるところがない。これ、どうやら「俳優陣のこれまでのイメージを裏切る芝居」がテーマらしく、深町友里恵もどうやらイメチェンのために本人とはまったく違うイメージの役をやっているらしい。だがしかしそれがひたすらネガティヴなだけのキャラクターになってしまうのはどうなんだ! しかもアラサーで映画初主演の深町には前もってのイメージなど何もないにもかかわらず。これ、どう見てもグ・スーヨンの性癖、というか作家性だよなあ。毎回毎回ひたすらネガティヴなだけの主人公を嫌がらせのように観客に押しつけてくるのである。映画としてはひたすらタルいタルいばかり言ってるヒロインにひたすら耐えなければならない。エンターテインメントのかけらもないのが芸術だと思ってる感じ?
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