ジャックス「君をさらって」とザ・スミス「What Difference Does It Make? 」 ・・・「拉致監禁」というロックの中の妄想 (久保憲司)
2016年のアカデミー賞の主演女優賞を獲得した『ルーム』を見て、号泣してしまいました。主演女優賞をゲットしたブリー・ラーソン以上にお母さんを助けるジェイコブ・トレンブレイくん演じる5歳の少年ジャックがとってもよかったです。
『ルーム』は監禁された女性が脱出し、社会に戻る苦労を描いた映画なのですが、僕が号泣したのは監禁の中で生まれた5歳のジャックが、犯人に捕まらず脱出出来るのか、お母さんは犯人に殺されないのか、というハラハラドキドキの緊張の中、少年が初めて世界に対峙する、大人になるというシーンです。ジャックの顔とあの青い空、素晴らしかったです。異常な状況の中でしたが、誰もが通過しなければならない大人への儀式を『ルーム』は見事に描いていたと思います。
みんなジャックのように世界に飛び込んでいかないといけない。それが人生なんだと思います。拉致監禁なんかする奴はそんなことをしたことがない人間なんです。学校とか会社に行っていても何もしていない、何かを変えるとか、自分を変えるとかそんなことを経験せずに生きてきた大人になってない人間なのです。
号泣したのはもう一つあって日本でもたくさんおきている拉致監禁が僕らの世代のせいじゃないかという思いもありました。僕は51のオッサンですが、僕らの世代って、拉致監禁にちょっと幻想を持っていた世代なんじゃないかという気がするんです。
ジャックスの「君をさらって」なんて、よく考えたら恐ろしい歌ですよ。僕より一つ上の世代の歌ですが。
君をさらって 汽車にのせ
遠いところに つれてってしまおう
汽車はけむりをはき 新しい町へ
花輪をつくり 小屋をたて
月夜の晩に 恋を語ろう
君は泣きやみ 僕の胸に
やがて僕らは 結ばれて
まるまるふとった子供ができる
いつまでも幸せに 暮そう
どことなく、つげ義春の漫画のような感じですけど、これって完全に『ルーム』と同じ話でしょう。『ルーム』の犯人もこんな妄想を抱いていたのでしょう。
(残り 1438文字/全文: 2273文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ