久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『ノルウェーの森』 ジョン・レノンが「ノルウェーの森」を作った時のヨーロッパもデフレだったなと思うのです。今だと「IKEA」ですよね

 

ビートルズのジョン・レノンが作った「ノルウェーの森」という曲はやっぱりいいなという話をひとつ。ブリテッシュ・フォークを元ネタとしているギター・リフなのでしょうけど、だからケルトとかの幻想的な感じになっているのでしょう。そこにもっと幻想的にするように、ギターのジョージ・ハリソンが「シタールを入れたらいいんじゃないか」と提案して、もっと幻想的になったというか、これからサイケデリック・ミュージックが生まれたのではないかと思ってしまうのです。ヴェルベッド・アンダーグランドのルー・リードはこの曲が入っているアルバム『ラバー・ソウル』が彼らの音楽のインスペレーションになったと答え「とても酸っぱい…フラッシュバックで思い出すのは音で、いかに自分の感覚が爆撃されたか」と付け加えた。この酸っぱさ(日本語で言うと切なさですかね)が「ノルウェーの森」という幻想的なタイトルとマッチし、がいいですよね。この曲名をタイトルにした小説は日本で2番目に売れた恋愛小説となりました。

 

 

一番売れた恋愛小説のタイトルが「世界の中心で愛を叫ぶ」というタイトルが、ミスチル的な90年代年代な感じだとすると(本は2001年に発売ですが)、「ノルウェーの森」というのは70年代から80年代の挫折からバブルに向かう空気感をとても出しているような気がします。

挫折って何かというと学生運動の挫折です。ほとんどの人が忘れていますが、日本の50年代、60年代の日本の若者は全員が平等になる世界が来ると信じていたのです。

で、内情は分からなかったけど、ソ連とか中国とか世界の半分近い国が平等な世界を築いていたのです。日本もそうすべきだと思っていたりしたのです。

でそんなのが幻想だったのだということで、「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」などでそういった若者たちのレクエイムを描こうとしていた村上春樹は、僕たちにはもう恋愛しかないのだと、「ノルウェイの森」を描いたのだと僕は思います。

 

 

だから小説には寝た、寝たという英語のセックスの別の表現スリープが使われているのです。それまで日本の男が女性と寝たという表現をしていたのかどうなのか、もう僕は覚えていません、でもそれまでの日本の男というのは女性とはヤルもので、寝るというそんな生やさしい表現だったような気がします。

僕の子供の時は漫画「嗚呼!!花の応援団」で主人公が「おめこ、チョメ、チョメ」と叫ぶのが衝撃な時代でした。

 

 

それで今アマゾンのコメントなんかを見るとこれはただのエロ小説でしょなんて書かれまくっているのです。

オーラル・セックスのことも衝撃的に語られているので、純文学で女性からフェラチオをしてくれるというのは珍しいことだったのでしょう。それまでというのは石原都知事の小説のようにチンポを障子にぶっさすように、男が女性の口にチンポを入れるというのが普通だったのでしょう、ジャマイカでオーラル・セックスは男の腐った奴がやるもの、男は女性のアソコは舐めない、ブッ刺すだけだったのでしょう。

こんな感じだと身も蓋もないので、吉本隆明の「ノルウェーの森」の評を書いておきます。

「わが近代文学の作品で、男女の性器と性交の尖端のところで器官愛の不可能と情愛の濃密さの矛盾として、愛の不可能の物語が作られたのは、この作品がはじめてではないかとおもわれる。(中略)性器をいじることにまつわる若い男女の性愛の姿を、これだけ抒情的に、これだけ愛情をこめて、またこれだけあからさまに描写することで、一個の青春小説が描かれたことは、かつてわたしたちの文学にはなかった。」

『ノルウェイの森』(講談社) – 著者:村上 春樹 – 吉本 隆明による書評

 

何を言っているのか全く分からないですけど、言っていることは僕が先に書いた革命に挫折した若者たちはセックスしかなかったということだと思います。

それで日本はポパイとかホットドッグ・プレスのような雑誌が流行って、クリスマスにはフレンチ食べて、赤プリに泊まって、7万円のティファニーのネックレスをプレゼントするというのが、一番正しいという世の中になった。今彼女に十万円も使える彼氏が何人いるんでしょう、カップルの食事のお会計を見てても二人仲良く割り勘にしているつつましい光景がいつも見えます。十万円から3千円になったのです。

 

 

どっちがいいか、なんか各自3千円の方がいいとしか思えないんですけど、日本はとんでもないデフレを30年近く過ごしています。

ジョン・レノンが「ノルウェーの森」を作った時のヨーロッパもデフレだったなと思うのです。だからタイトルが「ノルウェーの森」なのです。今だと「IKEA」ですよね。

 

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